イスラエルで開催中のU-21欧州選手権から見えてくるものとは・・・

彼らは決してこの大会だけを見ているだけではない。数年後のユーロ、そしてW杯で頂点に立つことだけを考えて未来のチームを思い描いていく。U21ユーロは決して日本では、そこまで注目度が高い大会ではない。しかし、フットボールの潮流を見ていく上では興味深い大会であると言えるだろう。

スペイン対オランダ。グループリーグ突破を既に確定させた2チームの邂逅では、お互いに主力の数人を上手く休ませるという選択に出た。オランダに関しては、最早全員が控えという程の徹底ぶりである。しかし、お互いの目指すサッカーは試合の中で良く見えてくることになった。控えであっても、クラブではレギュラーとして活躍する実力者揃いの2国だったからこそ、目指すフットボールを実行出来たという面もあるのだろう。

【両チームのスタメン】

前半流れを掴んだのはスペイン。そのシステムは非常に洗練されており、ポゼッションフットボールの教科書とも言うべきシステムだった。1つ1つ説明していくことにしよう。

スペインは、ゴールキーパーを含めた三角形でボールを回しながらセンターバックを広く開かせて、その間に生まれるスペースにボランチの1人を下りてくるようにする。ここで、相手が我武者羅にボールを奪おうとプレスをかけてきた場合、後ろの枚数が足りなくなって簡単にピンチを作られてしまうことになる。しかしそこは流石オランダ、この世代といえども無理にボールを取りに行くリスクを捨てながら2枚だけで前線のプレッシャーをかけていく事になった。

しかし、そうなると4枚を2枚で見ざるを得ない展開になり、どこかで容易に余った選手が生まれてしまうことになる。そして、その選手(図では中盤のボランチ)がボールを少し前に運び出すようなプレーを見せることによってオランダの中盤を徐々に引っ張り出していった。ボランチやセンターバックをフリーにしてしまうと、そこから正確なボールが送り込まれることから「プレッシャーをかけざるを得なくなってしまった」のである。これによって2枚で守っていたはずのオランダが少しずつ、中途半端に3枚目まで釣り出されていく展開になってしまった。狙ってプレッシングにいくというより、「やむを得ず」、「迷いながら」かけていったプレッシングは当然スペインにとって回避が難しいものとはならなかった。

そこで、ここから簡単にチャンスを作り出していくことに大きな役割を発揮していったのがもう1人のボランチである。スペインでは、このポジションに最も才能を評価されるチアゴ・アルカンタラを置いていた。何故なら、この選手の役割が最も重要なものになるからである。

マーカーとなる選手が厳しくボールを奪おうと彼についてきた場合、簡単にボールを中央に叩いて走り込んでくるボランチに合わせる。こうしてしまえば、後は簡単で前を向いてボールホルダーに自由がある状態で前線にいいパスを狙っていくことが出来る。ボールを叩いたチアゴ・アルカンタラもすぐさま攻撃に加わってくるため、少なくとも数的同数、良ければ数的有利な状態で前を向いてボールを持つ場面を作り出すことが出来る。

また、逆にマーカーがついてこなかった場合、振り向いてそこからトップ下にボールを当ててから折り返しを受けて、そこで生まれた時間を使ってシンプルに受け手を裏のスペースへと走らせていく。その辺りの判断力がチアゴ・アルカンタラはこの世代では素晴らしく、難しい場面では簡単にサイドバックやセンターバックにボールを渡して相手を焦らしていく中で、チャンスと見れば一気に前を向いて崩しにかかった。時にはトップ下に入っていたイスコも低い位置に顔を出すことで、中央での数的有利を作り出す上で重要な役割を果たした面もある。

ここで重要になってくるのは、スペインは決して前線で受け手となるメンバーを増やしていくことをそこまで重要視していないという事である。DFラインで数的有利を作り、中盤でも数的有利を作り出しながら、丁寧に1枚ずつ相手を引っ張り出していく。出し手に「自由」を与えれば2人や3人でゴールを陥れることは不可能ではない。

実際得点シーンでもエリア内に流れ込んでいくのは、たった2枚か3枚で裏に走らせながら崩してしまうというのがスペインの特徴だった。ゲームを支配し、リスクを減らしながらゴール前を最少人数で崩し切ることを可能にする。そういったスタイルを狙っているのは「バルセロナ的なサッカー」との違いを作ることであり、より守備のバランスを重視する方にスペインサッカー協会がシフトしていくことを望んでいくことの現れであるのではないだろうか。

逆に前半は苦しめられたオランダだったが、控え中心であっても後半は目指すサッカーの片鱗を感じさせた。後ろでの数的有利を解消させるために、プレッシングのラインを上げると一気にボールを持つ時間が増加。後ろでのゴールキーパーとセンターバック、ボランチで2つの三角形を作るやり方は同じながら、サイドバックからの縦パスをシンプルにウイングに当てていくオランダらしい攻撃によってスペインを苦しめた。オランダの攻撃における特徴といえば、やはりWGが2人を引き付けるようなボールの持ち方をすることで相手の守備をサイドにまとめる事で手薄にしたスペースを使っていくことだ。あえてウイングがボールを持つ時間を長くすることによって、相手を誘い出してスペースを狙ってくるこの形式は、2人を相手にすることすら苦にしない優秀なウイングの存在によって成り立つ。

オランダが目指しているのはスペインとは異なり、「サイドに攻撃の起点を作り出すことによって相手の守備組織を無理やりに動かし、作った穴をついていくスタイル」だという事が出来るだろう。中央を破ってから出し手に自由を与えるスペインと比べると、ウイングの能力に重きを置くスタイルである。また、彼らは時間をサイドで作ることが出来ることから、多くの受け手をエリア内に侵入させていくことも可能だと言える。今回の試合に出ていなかったレギュラー陣が加入してくれば、同じスタイルのフットボールであっても大きく変化してくるのも間違いない。U21はあくまでも前哨戦のようなものだ。数年後、彼らがA代表において主軸となったときにこそ、このように目指してきたものが正しかったかが証明されていくのだろう。

ヨーロッパの最先端において、組み立てが重視されている事には疑いの余地はない。当然のようにゴールキーパーがボールを扱い、後ろから1つ1つ丁寧にボールを繋いでいく。最早、それは周知の事実になっているからこそ、お互いに「それを知った上で」どのように仕掛けていくかというのが重要になってくる。組み立てをしながら相手を引っ張り出すことで出し手に自由を与えていったスペイン、中央を経由せずにサイドにシンプルに当てるパターンに切り替えたオランダ。彼らはお互いが出してくる手を理解し、そこをどう崩すかを考え始めている。

また、非常に興味深かったポイントは、オランダはゴールキックの際、CBにプレッシャーがかかっていた場合は「DFラインを上げさせてからロングボールを蹴り込んだ」一方、スペインは「DFラインを下げたままロングボールを蹴ることを選んだ」ことである。恐らくこれも、お互いのチームのスタイルにおける差であり、スペインは恐らく「ゴールキックを蹴り込んだ後にボールを保持した際に、組み立て直すようなバックパスを出していくのに十分な幅を保っておく」ことに重きを置いており、オランダは「ロングキックが跳ね返された際にセカンドボールを拾うことや、カウンターでオフサイドをかける準備をしておく」ことに重きを置いているということを仮定出来るのではないだろうか。スペインがゴールキーパーであるダビド・デ・ヘアのキック精度を信頼しており、ボールを取られても危険が少ないサイドへとロングボールを蹴らせていたことも特筆すべき点であるだろう。

消化試合だからこそ、お互いに「やりたい事」をやろうとする事を重視して相手を封じる事を目指さなかった2チームの試合は、今後を占う上で面白い資料になることは間違いない。また、こういった部分からは日本代表が作っていく新しいサッカーのヒントも転がっているのかもしれない。


 

筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
ツイッター: @yuukikouhei

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