③「動きなおす」という選択
だが、彼のボディーランゲージに対しての橋岡の答えは「NO(もしくは見えていなかった)」であった。
橋岡はアーリークロスを放り込むのではなく、さらにボールを運び、縦から中にドリブルの進行方向を変えたのだ。
そこで興梠が練り直した戦法が「動きなおす」という選択であり、それは彼が持つ二つの真骨頂を披露してくれた瞬間でもあった。
まず一つ目は「マーカーを外す動き」だ。
イタリアの世界では「スマルカメント」と称される、サッカー選手にとっても重要な能力な一つである。
上図は橋岡が中央に切れ込む瞬間を切り出したものだが、これだけを目にすると、興梠が非常に不思議な動きをしているように感じるだろう。
明らかにボールから離れるようにファーサイドへ流れており、素人目には、「ゴールに対しても遠回り」と感じられるはずだ。
だが、彼はこの動きに大きな狙いを持っていたように思う。
それは、自らをマーキングしていた立田悠悟を翻弄すること、より具体的に言えば「立田の視野から隠れてフリーになる」という明確な意図だ。
そしてこの効果はダイレクトに表れた。
立田は見事にこの戦法にハマり、興梠への注意が一瞬遅れて、ピンチを迎えてしまったのである。
つまり、興梠は「ゴールへの遠回りのような特有な動き」で好環境を作り、このシーンから数秒後に訪れる決定機を自らで演出してしまったというわけだ。