Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします。
サッカー観戦における「老い」とは
30年もサッカーに関わると、老いを感じる。
単純に物忘れが多くなって……といったことなら良いのだが、「これは嫌だな」というタイプの老いがある。
自分自身で感じる部分もそうだし、周りを見ていても感じる部分含めて、サッカー観戦における「老い」について述べていきたい。
(1)変化に対するネガティブな反応
これについて自分自身は全くあてはまらず、むしろ周りを反面教師にしているくらい。そして「老い」の中でここが一番恐ろしいと感じる。
サッカーに限った話ではないがこの世は常に変化し、アップデートされていく。その時代の流れについていけず、全ての変化に対して悲観的になっていてネガティブな反応を示し続ける人が自分の周りの40代以上のサッカーファンは本当に多く、これがまさに「老い」なのではないか、と危機感を含めて感じている。
Jリーグしかり海外サッカーしかりW杯しかり、制度変更には事欠かない。ただ、その変化が全て手放しで喜べるものかというと全くそうではなく、「改善20%、改悪10%、意見の分かれる改革70%」ぐらいの割合が個人的な実感だ。
しかし、「改悪100%」ぐらいの勢いで常にネガティブな反応を垂れ流す年を重ねたサッカーファンがおり、こうなると人生を豊かにするはずの折角の趣味が逆にストレスのもとになっていて本人の精神衛生上も大変よろしくない。
そもそも制度構築側もファン離れを避けたいし、より良くして新たなファンを獲得していきたいという考えから、常に改善に向けて動いているわけで、スポンサーや競技者側等のステークホルダーとの交渉の中で着地点を見出しているという前提がある(わざわざ自分達の首を絞めるため改悪に向けて動くわけがない)。
また、現状維持は停滞であり衰退を招くため、何かしら変化をしていかないと世の中に置いて行かれてしまう。そのためにはトライ&エラーで施策を打ち出していくことが重要。過去、FIFA会長だったゼップ・ブラッター氏については「100個のアイデアを生み出すが、そのうち101個がくだらない」と叩かれていたほどだが、中身はともかく、「変化し続けなければならない」というのは認識すべきポイントだ。
賛否両論のような制度変更も、背景や諸事情を想定すれば「納得はしないが理解はできる」、「双方が納得できる妥協点がこの変更だと理解」というものが大半だ。
にも関わらず、常に制度変更についてケチをつけ続ける人はいるし、「昔はこんな悲観的ではなく、文句ばかり言う人ではなかったのに随分変わったなあ」と友人知人に対して特にここ数年で思うことが増えたのだが、これがまさに「老い」なのだろうなと感じる。
こうなってしまうともはやストレスを溜めるために観戦しているようなものだ。TVの民放を見ながらTV画面に向かって文句を言い続ける中年・老人と変わりが無い構図。
逆に若手が文句を言い続けているのは、まだ清濁併せ呑む感覚もなければ過去の経験もないため、それは仕方ない。むしろ新鮮な新しい感覚で批判するのが若手の特権とすら思える。
しかし、人生経験を積んできた中年以上になって大人な発想にも至らず文句を言い続けるのは今までどんな人生経験を積んできたのかという話であり、想像力の欠如が著しい。この老い方は本当に避けたい。こうなるのは怖い。
(2)観戦数の低下
サッカー関係の友人知人を見ていると「追い求める熱が下がった」という情熱の薄れ、「体力面の低下で遠征数激減」という体力減少からの理由で観戦数低下を顕著に感じる。現地スタジアム観戦しかり、TV観戦しかり、見る回数が減っている点は「家庭環境の変化」または「老い」だろう。
TV観戦の場合、海外サッカーだと時差が影響するため、昔なら深夜でも見ていた人達が加齢とともに遅くまで起きていられずに観戦を諦める形となる。
特にW杯や五輪、欧州サッカーにおいては深夜キックオフが定番であり、年をとると翌日に響くことから深夜2時、3時キックオフの試合を、例えどんなに重要な試合であっても眠気に負けて寝てしまうパターンが多い。これも昔に比べ、観戦を諦める人が年々多くなったと感じている。それこそ、夜23時キックオフの試合ですら起きていられずに寝てしまう人には驚いた。が、いずれ自分も年をとると夜がキツくなるのだろう。
(自分は翌日の仕事に響くため、深夜1時〜3時キックオフの試合は諦めて寝る。逆に早朝4時以降キックオフの試合は思い切り早起きして観戦し、観戦後そのまま出社するフレックスでの超早朝出勤を行っている)
一方、現地観戦の場合、日本のスタジアムはアクセスに難ありの場所が多いこともあり、その点でも老いによる体力低下は出不精、観戦数低下に直結してくるのだと思われる。
今の自分はサッカーに対する熱量は全然変わっていないし体力面の低下も感じていないのだが、いずれ「老い」により50代以降になって体力面低下で行きたい試合を断念する未来がやってくるかと思うと、やはり健康維持と試合の取捨選択が重要になってくるなと感じる。
ちなみに自分の場合、30代の今、昔より観戦数が減っている理由としては仕事と家事育児が10代・20代の頃に比べると爆発的に増えたためという理由である。
100の時間があったとして、それこそ学生の頃なんて「サッカー80:その他20」ぐらいサッカー観戦に時間を注ぎ込めた。土日でハシゴ観戦含めて3試合観戦なんかもザラだった。年間100試合近くスタジアムへ足を運んでいた時代だ。
社会人になったら仕事がオンされるのでサッカーの割合が少し減ったが、まだまだサッカーへ存分に時間を使えた。しかし今は激変。
「サッカー20:仕事40:家事育児40」ぐらいにまで割合減少している。
この年間100試合現地観戦から40試合程度への観戦数低下、現状の自分においては「老い」というよりも「環境の変化」が適切と考える。
ただ、この先年月が経ち、子育てが一段落してサッカー観戦に再度シフトできる状況になった際、昔のように年間100試合近くスタジアムへ足を運べるかというと……健康面や情熱の面で変化している可能性があるため、確証がないのが怖いところだ。
(3)興味・関心範囲の狭まり
昔はどのくらいサッカー見ていました?
海外サッカー、日本代表、Jリーグ、自分の応援しているクラブ以外も色々とチェックしていた人が多いと思う。それがいつしか他のジャンルを見なくなり始め、
・気づけば自分のクラブの試合だけしか見ない
・相手クラブの試合も見ないので対戦相手のことほとんど知らない
・日本代表を見ても知らない選手ばかり
・W杯を見ても他国は知らない選手ばかり
前述の観戦数低下とリンクする話だが、このタイプの人も多い。自分の興味関心の範囲が年をとるごとにどんどん狭まっていく。
この項目のポイントは、「老い」だけではなく、観戦チャネルの複雑化も大きな要因の一つであること。昔はスカパー!さえ入っていればJリーグとヨーロッパサッカーはカバーできたし、日本代表とUEFA CLは地上波で無料放送、なんならリーガ・エスパニョーラはNHK BSで無料放送されていたほどだ。
これが2025年現在、DAZN、WOWOW、スカパー!、U-Nextと有料サブスクに4つ入らないと全てをカバーできない。おまけに地上波放送は激減して、UEFA CLは完全撤退、日本代表ですらアウェーはDAZN独占。簡単に見られる環境がなくなっていけば、それは興味関心の範囲狭まりに直結する。
これはもう個人の好みの問題で良い悪いの話では全くないが、自分はなるべく興味関心の範囲を広げたままでいたい。単純にその方が面白いからだ。一つのジャンルだけ狭く・深く見ていくより、広く・そこそこ深く見ていく方が楽しい。
年をとっても、どのジャンルのサッカーを幅広く楽しめる思考でいたいのが自分の考え。なので、加齢に伴い見るジャンルが狭まっていくのは避けたい。
(4)「昔は良かった」という懐古主義
これも本当に多い。昔から見ている人は漏れなく年を重ねて今に至るので、観戦ベテラン層はそれなりの年齢になって当然なのだが「昔は良かった」と懐古主義に至る人の多いこと。
例を挙げると、
「今のサッカーは戦術ありきでつまらない」
「昔は創造性に溢れるプレーをする個性的な選手が多くて面白かった」
「今の選手達から情熱を感じられない」
「昔の選手達はひたむきで応援しがいがあった」
などという論調。
「昔は昔で面白かった」ではなく、「昔は面白かった。今はつまらない」という現代をくさして語るようになったら「老い」だと思う。
これも自分は全くあてはまらず、常にサッカーは進化していて面白さが日進月歩で進んでいると感じている。
昔は昔で面白かったが、今の方が遙かにレベルが高い。新たなスターも次々に登場している。特に日本サッカーは弱小国だった時代からついに中堅国まで進化したこともあり、いずれW杯ベスト8の壁を打ち破り、決勝進出すら自分が死ぬまでには見られるのかも……と夢を見ているほど。
確かに個々のクラブにおいて「かつてはJ1だったが今や下部カテゴリーで低迷し続けている」というクラブもあるだろう。ただ、昔は良かったと昔を懐かしむだけならまだしも、今を批判し続ける思考になったらおしまいである。
今のガチガチ戦術でアスリート達がサボらず走り続けるサッカーが生理的に無理で体質的に受け付けられない人もいるとは思う。
もし本当に無理なら、自分好みの試合を自ら探していくのはどうだろう。どんなカテゴリーでどんな国かはわからないが、自分が好きだった時代のような試合をしているクラブは世界中のどこかにきっとある。
「今の選手達から情熱を感じられない」。これは自分の情熱が醒めているのを選手のせいにしている可能性もある。今の選手達が必死か、ひたむきなのか、情熱がないのか、全ては思い込みにすぎない。
昔の面白さだけに固執し、今の面白さを楽しめなくなるのは純粋に勿体ない。
目の前の批判に終始する老い方だけは醜すぎるので、自分は全力で避けたい。
以上4点を述べてきたが、この4点いずれかがあてはまる友人知人は数多くいて、自分から見ると「今、サッカー見ていて楽しくないんだろうな」と感じてしまう。
年をとっても情熱を失わずスタジアム観戦に足を運び、様々な変化にもそれを受け入れる頭の柔らかさを持ち、昔は良かったとつぶやき続けることなく、今を楽しめるような50代、60代サッカーファンとなりたい。