[天皇杯4回戦(ラウンド16)、J1名古屋グランパス 1-0 J1東京ヴェルディ、8月13日、東京・味の素スタジアム]
名古屋は東京Vを2-1で下し、準々決勝に駒を進めた。
前半12分に東京Vに先制点を許すも、同26分にMF内田宅哉が同点に。後半36分にはMF稲垣祥がペナルティキックを沈めて決勝弾を挙げた名古屋が激闘を制した。
FW木村勇大にとって、この試合は特別な一戦だった。今月4日に東京Vから名古屋に完全移籍が発表された木村は、背番号10を背負っていた古巣との再会は、あまりにも早く訪れた。
古巣戦で意地の90分
この日移籍後初先発の木村は、古巣のゴールに何度も果敢に襲いかかった。持ち前のフィジカルの強さを生かしたポストプレーや優れた身体能力を生かした空中戦で脅威になり続けた。序盤から全身全霊で戦ったからこそ「(勝利できて)すごく嬉しかった。足をつっていたのでしんどかった」というように終盤は攻撃への関与が減り、守備で戻り切れない場面もあった。
試合終了の笛が鳴ると、そのままピッチに大の字で倒れこんだ木村は「ピッチに立ったら、『このぐらいやれるんだぞ』と絶対に見せようと思って挑んでいた」と、体力が底を尽きても最後までピッチに立つ覚悟を貫いた。
古巣との対戦に特別な想いを抱いてフィールドに立った。小学生時代に東京Vの下部組織に所属し、2024年にJ1京都サンガF.C.から期限付き移籍でトップチームに返り咲く形で緑の名門へ帰還を果たした。時折感慨深い表情を浮かべて古巣サポーターを見つめるシーンもあり、試合前から東京Vに対する思いがあふれ出ているように見えた。
「きょうはどういう顔をしてピッチに来ようかすごく考えたが、ヴェルディのサポーターには『あいつを外に出さなきゃよかった』と思ってもらえるぐらいの活躍をして、名古屋の選手としてヴェルディを倒すことが、『自分の価値を分かってもらえるのかな』と思ってピッチに立った。自分の中で勝つことは絶対の条件だったので、先制されてすごく苦しい試合でしたけど、ヴェルディを倒せたのはこれからに向けての大きな一歩だと思う」と振り返った。
かつての仲間と激しい火花を散らした。名古屋は前半から相手のハイプレスに苦しむ中、木村は数少ないチャンスをモノにしようとするも、東京VのDF深澤大輝の激しいマークに阻まれた。
それでも前半26分の同点弾の場面で、木村が存在感を見せた。FW永井謙佑が中に切り返して上げたクロスに、深澤と競り合った木村がヘディングで合わせ、相手GKに弾かれたこぼれ球を内田が押し込む形で得点に関与した。
「最初自分はニアに走っていたけど、(深澤)大輝くんの後ろに動き直して、いいポジションが取れた。(相手選手とは)先週まで一緒にやっていたので、俺の方が読まれていたけど、ヘディングや駆け引きはヴェルディではなかなか見せていなかったので、あの瞬間は一歩自分が上回れたんじゃないかと思う。
スタメンで出る一発目の試合だったので、相手関係なくここで爪痕を残さないと、次のチャンスがいつ回ってくるか分からない。もう後がないなと思っていた。得点にはならなかったけど、自分が絡んでゴールに入ったのはすごく良かった」とやり切った表情を浮かべた。
木村との空中戦で後れを取った深澤だったが、その後は持ち前の粘り強い守備と正確なポジショニングでストライカーの封じ込めに成功。同じチームでやっていたからこそ、木村との戦い方を理解していた。
「(東京V時代の)練習でもマッチアップすることもあったし、あいつが嫌がることもわかっていた。勇大に体をぶつけてヘディングさせないことが一番大事だった。立場は変わったが、やっていて楽しかった」と深澤。
激しいマッチアップをしたが、ピッチ上で握手を交わすシーンもあった。かつて共に戦った仲間との絆は切れていない。
東京Vの背番号2は「縦への抜け出しもあいつは上手いので、ゴリゴリいける力強さがある。本当にとんでもないポテンシャルを持っているし、こんなところで止まる選手じゃない。サポーターの皆さんはいろいろ思うことがあるかもしれないけど、僕はあいつにもっと頑張ってほしい」とエールを送った。