自身二度目の契約破棄

アシポヴィチは2023シーズン、1勝しか挙げられないままリーグ最下位で3部に降格した。活躍を見せられなかった悔しさを晴らしたい行方はシーズン終了後、同クラブを退団してベラルーシ3部FCクルムカチ・ミンスクへ移籍した。

ディビジョンは前年のシーズンから一つ下がったものの、ヨーロッパの舞台を知る指揮官の下、同選手は1部リーグを戦った経験があるクルムカチで、確かな手ごたえを感じた。

しかし、2024シーズン終了後に、ベラルーシ2部FCドニプロ・モギリョフへのステップアップが決まるも、冬の移籍市場が閉まる5日前に突然、契約破棄を告げられた。最終的に元居たクルムカチと短期契約を結び、再契約を果たすが、昨季から監督やチームメイトが変わった環境で難しさを感じている。

それでも、これまで波乱万丈なキャリアを歩んできた男は前を向く。

──クルムカチに移籍した経緯を教えてください。

「一番の理由はチーム(アシポヴィチ)が降格してしまったためです。プレータイムが少なかったですし、結果も出ていなかったので、思うようなオファーは届きませんでした。ただその中で、歴史があるクルムカチからいい条件のオファーをもらったので、『自分が試合に出るという意味ではいい話だな』と思って移籍しました」

──2部のアシポヴィチと比べて環境の違いなどは感じましたか。

「リーグは下がりましたが、環境面は良くなりました。(本拠地が首都の)ミンスクということもあり、プライベートに割ける時間が多くなった点は自分にとって大きかったです。それと、監督(セルゲイ・コゼカ、ベラルーシ国籍)がサッカーを知っている方で、僕のプレースタイルを生かしながら(チーム構築を)してくれたので、昨季はすごく充実したシーズンでした。

監督は現役時代、ヨーロッパリーグ(2012-2013シーズンEL予選3回戦)でリヴァプール(イングランド・プレミアリーグ)と対戦したり、なかなかキャリアのある方です。ヘッドコーチ(ウラジーミル・ブッシュマ、ベラルーシ国籍)も、監督と同じチーム(同国1部FCゴメル)でリヴァプールと対戦していました。現役時代、国際大会に出るような監督とスタッフ陣がいて、いいサッカーをしていると感じました」

──『いいサッカー』とは具体的にはどのようなサッカーをしていましたか。

「ボールを握って、後ろからしっかり組み立てていく。ボールを走らせて相手を動かし、最後の局面で崩しきるような現代的なサッカーです」

──その中で行方選手がチームから期待されていた役割を教えてください。

「トップ下で出場していましたが、とにかくゴールに絡むことですね」

ミンスクの街並み。旧ソ連圏特有の無機質なマンションが並ぶ(本人提供)

──昨季終了後、モギリョフへの移籍が突然破談になってしまったそうですが、何が起きましたか。

「今年2月中旬ぐらいに代理人からモギリョフの話をもらって行きました。1カ月半くらい練習参加しながら、契約するとなって、いろいろな書類も準備して、最後にメディカルチェックも終わって、あとは登録するだけというところまで行きました。

登録は本来、二日あれば完了するはずですけど、三日経ってもぜんぜん登録が進まないから、代理人とスポーツダイレクターが『どうなっているの?』と(モギリョフに)聞いたら、『契約をちょっと待ってほしい』みたいな…。

それで、『やばいかな』と思っていたら、次の日の練習後(クラブに)呼ばれて、急に『今回の契約は白紙にしてほしい』と言われました。その理由を聞いたら、獲得意思を示してくれたオーナーが急に変わって、新しいオーナーが『今シーズンは外国人選手を使わない方針だから』と言われました。

去年モギリョフが1部にいたときに外国人選手を多く使っていて、ぜんぜん結果が出なくて、最終的に降格という結果になってしまったんです。外国人選手はそれなりにお金もかかっていて、それでも結果が出ないというところで、多分、その責任を前のオーナーが取ったのかなと。

(新しいオーナーは)地元の選手やユース上がりの選手を積極的に使っていくという方針だから、外国人はいらないという話しらしくて…。そう言われてしまったら仕方がないという判断で契約しませんでした」

──それは大変でしたね。なんとかモギリョフに残る選択肢はなかったのですか。

「残ろうと思えば残れたんですけど、試合に出られなかったので、代理人と話して『どうするか』みたいな話になりました。(契約破棄を)言われたのが移籍のウィンドーが閉まる5日前だったんです。その間に新しいチームを探すとなると、その期間に決まらなかった場合、夏まで無所属になるリスクがありました。

それで僕が去年までいたクルムカチが、シーズン終了の段階からずっと契約延長の話をしてくれていたので、いまの状況を伝えたら『戻って来てほしい』と言われました。試合にずっと出られないチームにいるより、求めてくれたところの方がいいなという感じで、(今年7月15日までの)短期契約で戻っています」

──元居たチームに戻って来て、昨季と比べて難しさは感じますか。

「急に戻ることが決まって難しいところはありますね。チームはプレシーズンからずっとやってきていて、僕はウィンドーが閉まる1日前にチームに合流して、次の週末からリーグ戦が始まっていました。メンバーも去年の半分とはいきませんが、かなり変わっていたので、同じチームなのに別のチームに行った感覚です。

契約が7月15日までしかないので、そのあたりの監督のマネジメントは難しいのかなと感じています。そこは僕も理解しています」

──今後、プレーしてみたい国やリーグはありますか。

「大学を卒業するまでの残り1年半はベラルーシにいる予定です。その後はチャンスがあれば西ヨーロッパやロシア、将来的にはアジアでプレーしたいと思っています」

──最後に、今シーズンの目標と今後のキャリアの目標を教えてください。

「まずは必要としてくれたいまのチームへ恩返しできるように最低限の数字を残すことが第一目標です。それ以降は、もし移籍することになればさらにステップアップできるように頑張りたいと思います。その後に別の国のトップリーグに挑戦することが、今後頑張りたい」

ベラルーシ2部の試合に出場し、ドリブルでボールを運ぶ行方(本人提供)

自身二度目の契約打ち切りを経験した行方。理不尽を受け入れながらも、若武者の顔には不思議と揺るぎがなかった。むしろ、その瞳の奥にある自信が、彼の経験の深さを物語っている。

【インタビュー】戦禍から避難したウクライナ人GKが語る戦争で傷つく母国とサッカー

行方は大学を卒業する来年3月まではベラルーシでのプレーを続ける。東欧を渡り歩いた侍の活躍に期待したい。

【厳選Qoly】日本代表、「E-1選手権の初招集」から1年以内にW杯出場を成し遂げた7名