君臨するアンドレア・ピルロ ―レジスタの組織への近代的な組み込み方―
アントニオ・コンテの監督としての特性とは何だ。そう問われたとしたら私はこう答えたい。言わずと知れた傑出したリーダーシップと統率力、それに加えて彼には恐ろしいほどの「吸収力と修正力」があると。
ユベントスは今季無敗。コンテは、シエナから移ってきたシーズンで結果を出している上に、選手時代は欧州を席巻した最強時代のユヴェントスの中心として闘ってきた男である。このような内容だけ見れば、アントニオ・コンテは挫折知らずの勝利者であるという見方も生まれてくるだろう。
しかし、今季のユヴェントスは何度も何度も挫折を繰り返し、その度にマイナーチェンジを繰り返しながら無敗を保っている。彼の代名詞となった「4‐2‐4」を序盤で諦めた事を見ても、彼が決して「順風満帆な航海」をしていなかった事が解るのではないだろうか。3-1で勝利をしたとは言っても内容的に上手くいかなかったカターニャ戦を見て、筆者はユベントスが疲労によって蝕まれている事を感じ、それと共にユヴェントスが王者から滑り落ちていくのではないかと考えていた。
だが、少しずつそこにアントニオ・コンテは修正を加えていった。そしてパレルモ戦で、近代的なピルロの為のシステムは、かなり完成に近づいた。
まず、カターニャ戦について思い返してみよう。序盤ユヴェントスを支え続けていた、マルキージオとビダルの攻守に渡る異常な運動量が段々と落ちていく中でピルロへの依存度が最高レベルに上昇してしまい、図のようにピルロより前とピルロより後ろのプレイヤーがはっきりと分断されてしまい、ピルロが狙われてピンチになってしまうような場面が目立った。メンバーの固定とシステム的な負担によって、マルキージオとビダルが下がる事で、ピルロの組み立てを助けるというシステムが瓦解し始めていたのだ。
そこが、他の試合を経て少しずつマイナーチェンジしていき、パレルモ戦にはピルロを生かすシステムが完成していた。今から、そのシステムについて説明したい。
図のように、3バックの左に入ったキエッリーニがオーバーラップしてピルロの左をサポート。引いてきたマルキージオが右をサポートする事で安全な選択肢として左右にパスコースを作り出す。高い位置に作った3バックの中心に、ピルロを配置しているような組み立てのスタイルである。
こうして、組み立てをするラインをDFラインより一列高い位置にする事によって、ピルロから前線の他のプレイヤーの距離も短くなる。そうなってしまえば、ピルロのパス能力はより生きる事になるのだ。バイタルエリアに落ちてきたヴチニッチ、裏に抜け出すクアリアレッラ、そしてサイドへの展開を巧みにこなすピルロを潰しに行こうとしても、しっかりと左右にパスコースがある事で簡単に逃げられてしまう。こうなってくると、最早パレルモにはアンドレア・ピルロを封じる術は無かった。マルキージオは、組み立てを担う事も可能で、ピルロが封じられたら彼からも組み立てがスタートしてしまう。このシステムになった事で、疲れによって蝕まれていたマルキージオも輝きを取り戻すのではないかという雰囲気すらあった。
アンドレア・コンテの戦術によって世界最高のレジスタは、近代的な組み立ての中に再び居場所を見出した。眩いばかりの輝きを放ちながら、筋肉という鎧で武装した戦士たちが闘える場所になりつつあったフィールドの中央へと凱旋した。コンテが、どこから吸収してピルロの生かし方に気付いたのかは解らない。普通に考えたら、現在世界を席巻している絶対王者バルセロナか、その戦術をイタリア風に変えつつあるASローマといったチームが妥当かもしれないが、まあその辺りは想像の域を出る事は出来ない。
修正と吸収を繰り返しながら成長しつつあるコンテ監督のやり方に合う、筆者が心酔する故ヴァレリー・ロバノフスキー監督のこの言葉で最後は締めくくろう。
「フットボールに飛躍は無いけれど、日々進展するプロセスがある」
※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。
筆者名 | 結城 康平 |
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プロフィール | サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。 |
ツイッター | @yuukikouhei |
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