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日本全土がスペイン撃破に歓喜した約2時間前、ロンドン五輪・男子サッカーの開幕戦として行われたホンジュラス対モロッコの試合は2-2の引き分けに終わった。

両者の力は概ね拮抗していたと言えるだろう。共に『圧倒的な個人能力を持つ選手はいるが組織が・・・』と嘆かれてきたチームであるが、この試合から読み取れたのはお互い組織的なチームだったということである。

これまでカルロス・パボンやダビド・スアソ、ウィルソン・パラシオスのような、まず日本には現れないであろう怪物的なプレイスタイルの選手を輩出してきたホンジュラスに関していえば、2006年W杯でエクアドルを16強に導いたルイス・スアレス監督の影響が大きい。スアレスは選手を組織的に機能させることに長けた監督で、個性派揃いと言われるホンジュラスを見事にチームとしてまとめることに成功。大会前の強化試合で3連勝し、本番へ臨んだ。実際、モロッコ戦では2失点したもののスーパーゴールと不運に近いもので、完全に崩された場面は少なかった。1トップのベングソンは長身ながらチームのために献身的に働ける選手で、後方のツーラインがしっかり守備をしつつそこから攻撃に転じるのがスタイルだ。

ただ、このスアレス監督のチームは組織を重んじるがゆえ、ゴール前の爆発力に欠けるきらいもある。分かりやすい例を挙げると2006年W杯ベスト16のイングランド対エクアドルだろうか。デイヴィッド・ベッカムのFKによる失点の他に守備面で危ない場面をほとんど作られなかったエクアドルだが攻撃面でもチャンスというチャンスはなく1-0で敗れている。スアレス自身が、OAでメンバー入りしチームの中心となっているエスピノーサのように攻守にハードワークできる選手を重用しているというのもあるし、そこにホンジュラス、また、中米のゆっくりと、しっかりと足元でパスを繋ぐ伝統も重なり、せっかく良い形でボールを奪っても例えば日本がスペイン戦に見せたような速攻という形にまではならないケースが多い。モロッコ戦はベングソンが2ゴールを記録したが、左サイドバックのフィゲロアに対する相手のマークが一瞬甘くなったこととPKによるもので、全体としてボールはキープしたものの決定機はそれほど作り出せず、終盤にはモロッコに退場者が出たため数的優位となりながら勝ち越しゴールは遠かった。

一方、今夜25:00から日本と対戦するモロッコ。名前と所属クラブでやや過剰に期待を抱かれるこの国は実際、ターラブトなどを代表されるように足元の技術、ことにドリブルだけなら世界を席巻できる選手がごろごろといるタレント大国である。しかし悲しいかな、才能豊かな選手は揃いも揃ってドリブラーばかり。パスの出し手があまりおらず、また外国生まれ(移民)の選手が多いこと、性格的にもそれぞれ我が強いこともありチームとしてまとまらないというのも近年の代表の特徴で、W杯出場はムスタファ・ハッジを擁した1998年以来遠ざかり、アフリカ・ネイションズカップでも結果を残せていないのが現状である。

ただ今大会のモロッコはもしかするとちょっと違うかもしれない。モロッコ移民も多く存在するオランダ出身のピム・ファーベーク監督が彼らの長所と短所をしっかりと理解しているように見えるためだ。

ホンジュラス戦では個人の能力で考えるとやや分があるため、もっと攻めていくのかと筆者は勝手に思っていたが(そこら辺は勉強不足である)、彼らのやり方は単純に言えば引いた守備からのカウンターであった。ピム監督はモロッコの持つ「圧倒的なスピードとドリブル能力」、「ボールウォッチャーになりがちで裏に弱い守備」、「展開力の乏しい中盤」という強みと弱みをシンプルに活かそうとしていた。もちろんこの戦いはホンジュラスがボールを繋ぐことが好きだったこともあるが、おそらく、スペイン戦での永井の圧倒的なスピードを見たピム監督は日本戦でも似たような戦いを見せてくるだろう。Jリーグの大宮や京都、韓国代表で長年指揮を採り、日本のことを知り尽くした監督のことである。

ホンジュラスに関してはスペイン戦での内容を見てまた改めて判断したいが、今夜のモロッコ戦に関して、巷では既に叫ばれていることだが、日本はスペインより苦戦するというかやり難い相手であることは間違いない。まず、上述したようにモロッコはある程度引いてカウンターを仕掛けてくることが予想されるため、永井の爆発的なスピードを活かすスペースは与えてもらえないことが挙げられる。永井云々だけでなく日本は予選や親善試合などで露呈しているように“主導権を握らされる”状況下ではまだまだ相手を圧倒する力がない。だからこそスペイン戦では出番のなかった、“ボールを持って違いを作れる選手”の代表格である宇佐美、高さで優位に立てる杉本の活躍には期待したいところだ。そして守備に関して言うとカウンター時におけるモロッコのスピード豊かなドリブルは厄介である。スペインは後方からしっかりパスを繋ぎ、また、あまり個人の勝負を仕掛けるスタイルではないため、日本は陣形を完璧に整えて対処することができたが、モロッコはその陣形が整う前にサイドアタッカーが仕掛けてくるだろう。ドリブル突破に限定すればモロッコはスペインのそれを上回っており、そうした相手を日本が苦手とすることは2014年W杯3次予選のアウェイ・ウズベキスタン戦や、今年のトゥーロン初戦でのトルコ戦、3戦目のエジプト戦で明らかとなっている。

最も警戒すべきは11/12シーズン、10代にしてオランダの強豪PSVで半レギュラーとしてプレーした19歳ザカリヤ・ラビャドだろう。オランダ出身で2016年リオデジャネイロ五輪の出場資格さえ持つこの才能豊かなMFは、ドリブルだけでなくパス能力や決定力も備えるトータルバランスに優れた完成度の高い選手である。このチームでは左サイドに入っているが、彼に自由にボールを持たせないよう気を付けたいところだ。

一方、ホンジュラス戦で1トップを務めたアンラバトはかつてVVVで本田圭佑とプレーした選手であるが本来のポジションはウィングである。そのためサイドに流れる傾向があり、あまりゴール前で脅威になるとはいえない。ボールを持ってからの判断力にも課題があり、VVVでの活躍の後に引き抜かれたPSVでは活躍できなかった(それからどれほどの成長を遂げたのかは分からないが・・・)。そしてホンジュラスの失点の話でも触れたが、彼らの初戦での2ゴールはスーパーとラッキーなゴールと言える部分があり、ホンジュラス同様さほど多くの決定機は作れなかった。加えてホンジュラス戦で左サイドバックのベルディシュが退場したため、日本戦では出場できない。

油断は禁物、しかし必要以上に脅威を感じることもない。 島国・日本人の特徴なのだろうか、ネットを見渡すと過剰に恐怖を煽りたてる人が後を絶たないが、実態以上の敬意と恐怖はマイナスにしかならないと私は思う。もちろん楽しむ上での感情の起伏は個人の自由であり、楽しみでもある。しかし、もし我々が日本サッカーの向上を望むのなら、選手だけでなくサポーター・ファンの見る目も肥えていくべきではないだろうか。大事なことは名前や所属クラブに惑わされず、チーム力を色眼鏡なしに正確に測ることである。彼らモロッコの立場に立てば自分達の不安を挙げればキリがないし、敵として見た日本は十分強く怖いのである。

日本代表チームはこの程度の分析は既になされていることと思うが、我々ファンもスペインに勝ったからといって安易にモロッコに勝てるとは思わず、相手が引いてそれを日本がなかなか崩せなかったとしても「それが彼らの狙いなのだから」と十分に認識し、我慢強く、辛抱強く、忍耐強く、選手と共に戦いましょう。

日本の勝利を願って。

(筆:Qoly編集部 H)

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