いつ何時もナショナルダービーというものは、絶対に敗けられない戦いである。同じ赤を基調とするユニフォームを互いのホームカラーとして採用するクラブは、イングランドのリーグ戦を最も多く制したクラブと二番目に多く制したクラブである。両者には深い深い溝があることは言うまでもない。同じ赤を基調としながらも、互いが相容れることはなく、互いに嫌い合い、声を大にして暴言を飛ばし合う。

さて、試合を前に、ほぼ残留宣言を見せたルーニーが頭部の負傷で欠場することとなり、ユナイテッドは調子の良かった主役を欠いて大一番に望むこととなった。頭部と言っても頭皮のトラブルでは無いようだ。

代わりにヤングが入り、布陣は4−4−2でスタート。しかし代役ヤングがいきなりやらかして、結果それが致命的な決勝点となってしまった。

【ミスとセットプレー】

ヤングという選手の致命的な弱点とも言えるのだが、前を向いてキープする能力がなく、少々圧力を掛けられると強くない身体がそれに敗け、ボールロストする悪癖がある。強くないのにキープしようとするあまり出たのがこの場面であり、場所を考えれば決して許されないミスだった。CKからスターリッジの頭をかすめたボールはゴールネットを開始早々揺らし、アンフィールドのボルテージを一気に引き上げた。

もちろん、セットプレーからの失点そのものはいつでも起こりうることだし、ミスは残りの85分間で取り返すこともできる。しかしなかなかリズムが掴めずに、良さを出すことも難しかった。ヤング自身いいミドルシュートを持ってはいるのだが、やはりそれはチェルシー戦同様に、右サイドで活かされるべきだろう。改めてそう確信した試合となってしまった。彼の速さと右足は現状左では難しい。

【守備→ポゼッション】

開幕戦も、チェルシー戦でも、ユナイテッドはボールポゼッションを握って試合を進めることに成功している。同じくこちらでコラムを書いている結城康平さんも前回のコラムで触れているが、モイーズが就任したユナイテッドは、相手のビルドアップをうまくさせないように取り組んでいる。それはこの試合でも見て取れた。

まず、前線から相手の最終ライン、時にGKまでボールを追いかけ回しにかかっている。これによってロングボールを蹴らせるのだが、ハイボールに限って言えば高いラインを保つファーディナンドとヴィディッチが跳ね返してしまう。スターリッジもアスパスも空中戦ではこの熟練したCBにはかなわない。 もちろん高いラインを保つことはスピードの無いCBにとっては逆にリスクでもあるのだが、そこは前線からのプレスで精度の低いボールを蹴らせることでマネジメントしている。結果、この試合もボールポゼッションを相手よりも高く保つことに成功している。もちろん勝ってナンボの数字ではあるし、試合展開などで必要のないポゼッションもあることは承知のうえだが、明らかにサー・アレックス・ファーガソンの頃とは違うのだ。明らかに狙ったものだ。あなたも見ただろう、ウェルベックが恐ろしい速さでGKにまでボールを追っていく姿を。最前線でボールを追わせたらおそらくプレミアで一番速い。

【ポゼッションを握った後が続かない】

この試合、左利きのギグスを右に、右利きのヤングを左に置いた布陣で臨んだユナイテッド。ヤングの左での起用はいつものことだが、ギグスが頭から右にいることはなかなかない。ポゼッション出来ると確信したことを理由に考えればひとつの狙いが見えてくる。

ポゼッションすることは当初からの狙いで、問題はその後だった。ポゼッションしても前節のチェルシーの様に、ある程度人数をかけて引かれてしまってはなかなか崩せない。チェルシー戦ではルーニーが中央でボールを操ったが、ファン・ペルシーが孤立してなかなか崩せなかった。私の前回のコラムにも書いたが、バイタルエリアで持たされていたルーニーにもうひとり前線への侵入者がいれば攻撃の厚みが出て、ゴールを割れたかもしれない。そしてそれはセンターハーフがやるべき仕事だった、と書いた。

この試合では、逆足のウィングを両サイドに配置することで、サイドから中央に絞るウィングがバイタルエリアを使い、あいたサイドのスペースにSBをオーバーラップさせることでサイドをワイドに使い、かつウェルベックとファン・ペルシーの二枚は中央に残しておける、というマネジメントだったはずだ。ヤングとギグスの二人は両足を巧みに扱うタイプではなく、必然的に利き足を多用する。逆足のサイドに配置されれば縦に抜けることはあまり望めない。が、ボールポゼッションがほぼ確定しているならば、逆足のメリットはある。ボールを失わなければ中央を含めて攻撃に人数をかける事ができる。ただこの試合で残念だったのは、ヤングとギグスの出来とジョーンズのクロス精度がいまいちだったことだろう。

【アタッキングサードでのクオリティ不足】

二列目の出来がいまいちであったことは最前線の二人を苦しめた。相手のマークをかいくぐるにも二列目にボールが収まらず、良いボールが供給されないことにはどうにもならない。二列目の出来がいまいちなことに左右されてはいけないのだが、そうと言わざるを得ない状態であった。やはり共に利き足のサイドで起用されるべきだろう。SBに関しては、やはりラファエル不在が非常に痛い。一対一のディフェンスなどではジョーンズに軍配が上がるが、ポゼッションして攻撃に時間が割けるならばラファエルの存在は非常に大きい。怪我はいつでも起こりうることなので、たらればを言ってもしかたないが、逆に言えばラファエルが復帰した際には非常に楽しみなところでもある。

簡単に言えばアレほど押し込んでいたにもかかわらず、アタッキングサードでの崩し、バイタルエリアで上手く立ちまわることが出来なかった。ただしそこまでもっていくところまではできている。サー・アレックス・ファーガソンはアシスタント・マネージャーに左右されることもあったが、基本的に緻密な戦術で勝負するタイプではなかった。過去のコラムでこうすべきだったああすべきだったと何度も書いて来たが、それでも結果を出して周りを黙らせてきたことはご承知の通りである。危なっかしい試合を繰り広げながらも、個の力と逆にある程度バタバタとやりあうことで前線が活きるスペースができていた感は否めない。だが、開幕から3試合見るだけでもユナイテッドはかなりオーガナイズされたフットボールをしている。ポゼッションまで持っていくディフェンスを見る限り、モイーズによって計算しつくされたものだろうと推察される。

【モイーズの狙い】

ポゼッションを握るためにディフェンスから入ったモイーズ。ただ、そこから先の崩しはこれまであまりなかったところであり、あまり得意な選手は多くない。狭いスペースで崩すにはまだまだクオリティと戦術が追いついていないことは明らかだ。もちろん選手起用にも大きく左右されるが、あくまで優先はポゼションを握って押し込まれないこと、なのだろう。ここのクオリティを向上させるにはまだまだ時間が足りていない。まだモイーズとユナイテッドは始まったばかりである。

モイーズの考えるフットボールを遂行するための戦術を落としこむにはあまりに時間が短い。TVゲームで無いのだから、全ての戦術を落としこむことがわずか一月半でうまく行くのなら誰も苦労はしないだろう。ナショナルダービーという舞台での敗戦は受け入れがたい結果だが、開幕から3試合で勝ち点4という結果に悲観するほど短絡的でもない。昨期も3試合で勝ち点6。相手は今期よりも若干楽だったように思える。なにせ開幕から5連勝したシーズンは優勝できていないし、もともとスタートダッシュが良いクラブではない。年明け前後にテーブルの頂上にいれば通常営業だ。と私は考える。シンプルな守備の戦術から入ったことが間違いだったかどうかを判断するのはシーズン終了後の仕事だ。

【後ろからのビルドアップが改善】

さて、もう一つ。3試合目にして驚いたのが最終ラインとCHのビルドアップだ。 リヴァプールも出足早く前線から奪いにきていたが、少々のミスはあったものの、ユナイテッドの最終ラインとクレヴァリー、キャリックは球離れ良くシンプルにボールを動かしていた。開幕戦や開幕前の予想でどうなることかと思われたこの部分もわずかな期間で大分改善しており、驚くばかりである。特にクレヴァリーが軽快にボールを繋いでいる場面が目に付く。それだけに二列目のチャンスメイクが拙かったことが強調されてしまった。

安定した結果を望むのはまだ早いが可能性は感じられた。状況は違えど、ファーガソンとて就任直後にいきなり優勝したわけではない。結果に悲観するのは試合の性質的にしかたがないかもしれないが、私は悲観よりも明るい可能性への期待感の方が大きい。モイーズのフットボールはファーガソンのものとは違う。結果がすんなり出るとは思わないが、ワクワクさせる課程の最中にあると信じて、代表戦明けを待つことにしたい。まだモイーズ色に染め上げている最中なのだ。モイーズの実験と検証はこれからも続くだろう。

余談だが、サイドやバックを刈り上げたコウチーニョが、スラムダンクの宮城リョータにしか見えなくてしかたがなかったのだが、ウェルベックの髪型が赤木キャプテン状態なので、足りないのは赤い髪をした・・・やめておこう。


筆者名:db7
プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ホームページ:http://blogs.yahoo.co.jp/db7crf430mu
ツイッター:@db7crsh01

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