●勝利を収めるフットボール●
昨季のこの時点の周囲の反応を考えると、今季に対しては「スペインの時代が戻ってきた」、「スペイン勢が盛り返した」という様な声が上がるのだろうか。
私は今季の各チームの勝ち上がり方を見ると、そういう表向きな話ではない様な気がしている。 スペイン勢がどうとかドイツ勢がどうとかいう話ではなく、フットボールそのものを見つめて考えてみて初めてわかる話ではないかと思っている。長すぎる年月というわけでもないが現代フットボールを見てきて、私は勝利を収めるフットボールには「トレンド」というものが存在するのではないか、と考える様になった。
そう考える私には、スペイン代表がEURO2008で優勝してから13-14シーズンの開幕前までのしばらくの間、「ポゼッションと連動性」を極めたチームが栄光を勝ち取ってきた様に思える。 EURO2008でスペインが優勝してから開幕した08-09シーズンは、バルセロナが全てを勝ち取った。10-11シーズンにもリーガとCLの二冠を達成したが、ウェンブリーの決勝での彼らは「単なるチームを超越した存在」とまで評されるほどだった。彼らの最大の武器はポゼッションと連動性による攻撃フットボールである。
フットボール界では彼らが模範として扱われ、間違いなく「ポゼッションと連動性」がトレンドとなっていた。
たとえバルセロナの様にタイトルを争う事が出来ないチームであっても、ポゼッションと連動性から攻撃を繰り出すスタイルのチームは称賛を受ける傾向にある ーすなわち人気を勝ち取っているー ということも、いかにそのスタイルがトレンドとなっているかを表していた。 もちろん日々緻密な研究が行われ日進月歩で進化していくクラブレベルのフットボールでは、そのトレンドを体現するバルセロナが毎年三冠をとれたわけではなく、CLを連覇したチームは未だ存在していない。
バルセロナが三冠を達成した翌シーズンにはインテルが三冠を勝ち取ったし、そのシーズンのCL準決勝インテル対バルセロナは、クラブレベルのフットボールにおいて研究と対策の進歩がどれほど早く進むのかを象徴するような試合だった。しかし全タイトルをとったインテルも、そのフットボールがトレンドとなることはなかった。
トレンドとは実力に継続が伴って初めて生み出されるもの。
インテルはその翌シーズンも翌々シーズンも、三冠を勝ち取ったフットボールで勢いそのままに勝利を積み重ねていっただろうか?三冠を勝ち取ったインテルのフットボールに更なる進化が見られただろうか?答えはノーだ。
モウリーニョが去った後インテルは崩れていき、三冠を勝ち取った実力が継続していく事はなく、トレンドはバルセロナやスペイン代表が継続して強さを発揮していた「ポゼッションと連動性のフットボール」に存在し続けたままだったのだ。
新しく生まれ変わり、より主観に左右される様になったFIFAバロンドール2010の最終候補の3人にインテルの選手が誰一人残らなかった衝撃の選考を誰もが覚えている事だろう。最終候補に残った三人は、メッシ、イニエスタ、チャビ。飛び抜けた個人成績を評価されたメッシがその年の受賞を決めたが、重要なのはインテルの選手ではなく、バルセロナの選手達であったという事であり、その三人のうち二人がW杯優勝を成し遂げたスペイン代表の功労者であったということだ。
バルセロナとスペインのフットボールスタイルは酷似している。そう、「ポゼッションと連動性」である。 そして彼らのもう一つの共通点は、「そのままのスタイルでフットボールの内容をさらに向上させ、勝ち続けた事」だ。 この最終候補選考は明らかにその点が評価されたものだった。