つまり、授賞選考はともかくこの最終候補選考時にトレンドとなっていたのはインテルの様な「緻密な組織的守備」ではなく、「ポゼッションと連動性」のフットボールであったという事の何よりの証拠だったのである。
研究と対策が早く進むクラブレベルでバルセロナが対策されたとしても、そうではない代表チームレベルでは「ポゼッションと連動性」のスペインが主要タイトルを勝ち取り続けていた。バルセロナが10-11シーズンにCL決勝で完璧なフットボールを披露した瞬間にトレンドはピークを迎えたが、その後「ポゼッションと連動性」のトレンドは陰りを見せていく。
EURO2012でスペインは確かに優勝したが、大会を通じて以前ほどのフットボールが展開できていたとは言い難く、バルセロナも11-12シーズン以降そのフットボールはレアル・マドリーやCLで対戦する可能性のあるチームに研究し尽くされ、ついに昨季CL準々決勝2nd legパリ・サンジェルマン戦や準決勝のバイエルンとの2試合でその衰弱ぶりを露呈。
「ポゼッションと連動性」を駆使してタイトルを狙うチームは明らかに、「プレッシングとトランジション(攻守の切り替え)」を得意とするチームに苦戦し、大きな敗戦を重ねる様になっていく。
昨季のCL決勝ではドイツ勢同士の対決となったが、どちらも「プレッシングとトランジション」を極めたフットボールを展開しているチームだった。そしてその後のコンフェデレーションズカップ2013。「ポゼッションと連動性」で登り詰めたスペインと決勝で対決したブラジルは、「プレッシングとトランジション」を徹底して終始スペインを圧倒し優勝を果たした。
代表チームレベルでもついに「ポゼッションと連動性」に対する研究と対策が追いつき、勝利を収めるフットボールのトレンドが「ポゼッションと連動性」から「プレッシングとトランジション」へと移り変わり始めた瞬間の様に私は感じた。
そして今シーズン、13-14シーズンのCL準決勝を改めて見てみる。バイエルンはペップが就任してからバルセロナ仕込みの「ポゼッションと連動性」を最大の武器としているチーム。マドリーはトランジションと、そこからの強烈なカウンターアタックを得意としているが、マイボールにするときは前線のプレッシングで相手をボール奪取網に誘い込む様な戦術をとっている。ボールを奪取してから、中盤のクリエイターが状況を見てポゼッションをして組み立てていくか、高速カウンターで仕留めるかの選択肢をとるチームであり、そのカギは間違いなく「プレッシングとトランジション」である。
前述の通り、結果は奇しくも最近のフットボール界での両スタイルに関する勝敗の構図がそのまま反映される形となった。 フットボールのトレンドの移ろいを感じたからといって、私がこのカードの勝敗を予想できたわけではないし、それゆえ自分の直感が当たっていたのだと試合の後になって言い出すつもりも全くない。しかしこの結果から改めて考察出来る部分はあるはずだ。
「ドイツの時代がやってきた」とか「スペインフットボールが盛り返した」とかそういう問題ではなく、スペインが優勝したEURO2008から栄華を誇った「ポゼッションと連動性」が研究と対策を繰り返され、代わりに「プレッシングとトランジション」のフットボールが栄華を誇り始めているのかもしれないと私は考える。
もっとも、だからといってポゼッションと連動性のフットボールが衰退したと言いたいのではない。あるタイプの戦術が存在し、対策されたとしても、それはそのまま衰退していくという事はない。スタイルはそのままに戦術は進化し、再びその強さが舞い戻ってくる事の可能性は、現代ではバルセロナがすでに証明している。しかし決して戦術のみが一人歩きで進化するというわけではないと私は考えている。