チームの応援を先導するコールリーダー

チームの応援を統率する中心応援団体『Lino La Iwaki』(通称リノラ)のコールリーダーを務める會田(あいた)さんとクラブとの出会いは、意外なきっかけから始まった。高校1年次に競技者としてサッカーに取り組んでいた會田さんは競技指導者を志していたため、地元の中学校で外部コーチとしてサッカーを指導していたという。

コールリーダーを務める會田さん(右)

そのため「コーチとしての知識が無かった。地元で勢いがあってプロリーグを目指しているチームがあったので、最初は練習前のアップなどを観に行っていました」と意外な理由でスタジアムへ通っていた。

当然目当てのアップの後には試合が開催され、いわきイレブンたちのフィジカルの強さと身体能力の高さを生かしたサッカーを目の当たりにして「他のJクラブにない戦い方をしていたので惚(ほ)れました」とハートを鷲づかみにされた。

次第に中島さんら応援団体の応援に感化され、「いいなと思っていたので勇気を出して応援団に入りました」とチームを鼓舞する側となった。ただ当時は東北リーグで戦っていたチームを応援しているサポーターの年齢層が高く、中島さんと會田さんしか若者はいなかったという。若くて活気のある二人の応援する位置が次第に後方部から前へ、前へと前進していった。

2021年のJFL最終盤にこれまで太鼓を担当していた中島さんが大学進学のため、県外へと引っ越すことが決まっていた。そのためホーム戦で太鼓を叩ける人材を探していた応援団体は複数のメンバーに太鼓を叩かせて中島さんの後継者を探す中で、會田さんが適任者に選ばれたという。ただこの決定と同時にある重要な大役も任された。

「僕の知らないところで話が進んでいたみたいですけど、チームがJ3に上がったタイミングで『来年はあなたがコールリーダーです』と急に決まりました。最初は太鼓を叩いてリーダーを支えるのかなと思っていたんですけど、断ることはできませんでした」と声援を先導するコールリーダーを任された。

急な決定だったが、「おっしゃ、やってやる!」と気合を入れて大役を引き受けた會田さん。それから身振り、手振りを真似て我武者羅になりながらサポーターが歌うチャント(応援歌)を先導してゴール裏を盛り上げた。

応援を統率する會田さん(中)

いわきのゴール裏は老若男女と幅広い世代が多く、応援の統率は容易ではない。サポーターの疲労度を考慮してスローテンポのチャントを入れるタイミングや、攻撃時にはハイテンポの応援歌で盛り上げる。「メリハリの部分は本当に難しい。本当に気を付けながらやっています」とすべての世代が熱狂する空間を作るために気を配っている。

チームのスローガンである『魂の息吹くフットボール』は、いわきイレブンがピッチで体現してきた。泥臭く、激しく、試合終了の笛が鳴り終わるまで走り続ける愚直な姿勢は多くのサポーターの胸を打ってきた。このスローガンは選手だけではなく、サポーターにも浸透している。

「僕らも選手、スタッフと一緒になって観客もあの箱で『魂の息吹くフットボール』を体現しないといけない。非常にいいゴール裏をいま作れていると思っています」と話すように、華やかな応援だけではなく、魂の息吹く鼓舞で選手たちを奮い立たせるエールを送り続けてきた。

そしてサポーターたちの応援する姿とチームスローガンが結実する瞬間があった。昨年6月16日に開催されたJ2第20節ヴァンフォーレ甲府戦で、燃え盛る炎が揺らめくようにチームカラーの赤と青の旗がゴール裏を埋め尽くした。

燃え盛る炎が揺らめくように、フラッグがゴール裏を埋め尽くした(いわきFC提供)

サポーターたちが旗を掲げて応援する姿は、いわきでしか見られない唯一無二の光景だった。コールリーダーは「あれを文化にしていきたい。あれだけの旗を導入して、SNSでは『浦和みたいだ』『J参入3年目でこのクオリティを出せるんだ』といろいろな声がありました。これからはいわきといったらあの旗だよねという感じにしていきたいですね」と胸を張る。

独自の応援文化が根付いてきた。応援を通して地元愛が深まったというサポーターの声も多く聞こえてくる。會田さんはチームに「地元をもっと好きになれた存在ですし、きっかけをくれた存在です。これからも浜通りを照らし続けて、浜通りに住むひとたちがいわきFCを誇れる存在になってほしい。県外の人と話しても胸を張って堂々といわきFCがあるよと言えるような存在になってほしいですね」と大きな期待を寄せている。