クラブ史上初の1部昇格へ!

無所属期間を経て新天地へ渡ったビスマルクは、クロアチア2部ヴコヴァルに入団した。ただ2部とはいえ競技力の高いクロアチアで活躍するには、アスリートとしての能力、サッカー選手としての能力を高い水準で求められる。

入団当初のビスマルクは「最初に来たときは、出られるかまったく分からなかった」と弱音を吐くほど、レベルの高いポジション争いを強いられた。それでもライバル選手が立て続けに負傷したため、右サイドバックでのポジションを確保した。

2023-24シーズン・クロアチア2部第5節セスヴェテ戦に16分間出場したビスマルクは、決勝点となる2得点目をアシストした。

「(クロアチアに来てから)2試合目でアシストできて、信用を勝ち取れました」。そこからレギュラー右サイドバックとして身長186センチを生かした空中戦の強さと、推進力のある力強いスプリントで攻守の要となった。

クロアチア2部ヴコヴァルでプレーするビスマルク(左)

ただ順風満帆に活躍できたわけではなかった。日本とクロアチアのギャップに苦しむ経験もあったという。

「Jリーグとクロアチアの違いで一番きつかったのが、自分の育った環境とクロアチアの環境が違ったことですね。青森山田は自分で考えるというよりかは、決まったプレーをするような戦術でした。グルージャへ行っても同じような感じでした。あまりサッカー選手として、場面、場面で考えてプレーする能力が自分にはなかった。クロアチアでは最初の方は手こずったんですけど、そういう部分ではクロアチアで一サッカー選手としての『考える能力』は養われた気がします」と、新天地でこれまでになかったスキルを身に着けた。

そしてサッカーをする環境にも違いがあり、「ピッチ(コンディション)がめちゃくちゃ悪かったりします。サッカーじゃなくなるときがあるし、なんなら『雪中サッカー』に近くなることがあるんですよ(苦笑)。こっちに来ていいピッチで、いいチームとやらせてもらったんですけど、レベル的には別に悪くないというか。みんなでかくて速い。でも日本人のほうが細かい技術は全然上だと思います。一対一では日本人の小さい人が苦手なんですけど、こっちでは小さかったとしても170センチくらいなので、ディフェンスのときの一対一は日本より止められる気がします」とクロアチアと日本の違いを明かした。

クロアチア人に負けない優れた身体能力を生かして跳躍するビスマルク(中央)

現在チームは2部リーグで首位につけており(5月20日現在)、前身の歴史(前身クラブは2012年に破産)を含めて、一度もトップディヴィジョンに立った歴史がない。優勝チームだけが1部昇格を果たせるため、自身の未来のためにも何としてでも首位をキープしたい。

「優勝できるチャンスがある。優勝プラス自分でも数字をリーグで残せればと思っています」と闘志を燃やした。

まだ22歳と若く、優れた身体能力とクロアチアで身に着けた頭の使い方を持ち合わせるビスマルクは無限の可能性を秘めている。

「(将来は)5大リーグでやれたらいいですね。ディープな話をすると、クロアチアで5年やったらクロアチアのパスポートが貰えます。人生を考えて『もう一個パスポートを持っておきたい』という気持ちがあります。

ドイツブンデス(リーガ)に行ったら外国人枠がないので大丈夫ですけど、ヨーロッパのパスポートを持っていたらフィリピンよりは可能性が広がります。そういう面でもクロアチア1部でやりたいですね」と人生設計を見据えてクロアチアでのプレーに意欲を燃やしている。

兄ジェファーソン(左)とビスマルク

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大きな罪を犯してしまったが、その罪と向き合い続けた末に新たな道を切り拓いたビスマルク。兄ジェファーソンとともにフィリピン代表でのワールドカップ出場、個人としてもヨーロッパでの活躍を目指す男の未来はまばゆく光り輝いている。

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