キャリアの中でのベストゴール

後半6分に右サイド奥からインドネシア代表MFマルセリーノ・フェルディナンがゴール中央へとクロスを供給すると、山本が華麗にトラップして反転。左足で素早くシュートを放ち、ゴール中央へこの日3得点目となる決勝弾を叩き込んだ。

「あの雰囲気の中で決めたことがすごく良かったです。いままで人生の中で何ゴールか決めてきたんですけど、あのゴールは一番叫んだと思います。一番叫んで一番喜んだ。喜んだというか、自分は点を取ってもそんなにリアクションを見せないんですけど、そのときはすごく喜んで両手を挙げて叫んだと思います。すごい決め方をしたわけではないですけど、自分のキャリアの中ではある意味ベストゴールだと思っています」と感情を爆発させた。

試合はそのままスコアは動かず3-2で山本が所属するペルセバヤ・スラバヤがアレマを破った。ただ20年以上仇敵にホームで敗れていなかった群衆は、怒りを爆発させる寸前だった。

「試合が終了する前からペットボトルの水がコーナーに投げ込まれました。例えばスローインで(ボールを)取りにいった選手に(ペットボトルを)投げられたりとかがありました。自分のチームは『終わったらすぐ戻って来い』『みんなロッカールームに走って戻れ』と最初から言われていました。

試合終了した瞬間にみんな走って戻って、ロッカールームでちょっと喜んでいたけど、『早く着替えろ』『行くぞ』と言われました。だから誰もシャワーを浴びないでそのまま着替えて、ロッカールームに10分ちょっとしかいなくてそのまま護送車に乗り込んだんですけど、そこからまったく動かなかったです」

試合終了後怒り狂ったアレマのサポーターはピッチレベルに侵入し、相手サポーターと乱闘となった。

暴動が発生したカンジュルハン・スタジアム

山本たちが避難している間にスタジアムは地獄絵図と化していた。スタジアムでは暴れ狂うサポーターにセキュリティが応戦するなど、想像を絶する状況となっていた。

「そのまま護送車に乗り込んでホテルに戻るとなってたんですけど、車がまったく動かない。護送車は戦車みたいな形をしているんですけど、まったく動かなくて『どうなってんの』みたいな。1時間くらい動かなったかな。でも自分たちは試合後で興奮もしていて、その小さい護送車の中でワチャワチャ騒いでいました(苦笑)。

それから『ちょっと外を見てみ』となって、小さな窓から覗いたら警官たちとサポーターたちがバチバチやり合っている。『ええ!?』ってなりましたよ。自分も見たらびっくりして、『これやばいんじゃね?』となりました。

その日2回目の『俺ら戦争しに来た?』と思いましたよ。あれはもう戦争でした。煙も上がっているわ、警官は警棒でサポーターを叩くわ、サポーターも看板で思いっきり戦いに行くわ…。もうびっくりしましたね。それが1時間ちょっと続いていました」

騒動はスタジアム外にも波及し、乗用車が燃やされるなどの被害も出たという。警官隊は催涙弾を暴徒に投下するなど応戦し、この世のものとは思えない光景が広がっていたという。

スタジアム周辺で破壊された乗用車

「(護送車は)全然進まなくて、やっと進み出したと思ったら、ちょっと進んだ先にパトカーが裏返って燃えているんですよ。すごかったです。(それで)これは危なくてホテルに帰れないとなりました。だからそのまま自分たちはホテルに荷物を置いていたんですけど、それも置いて後日荷物を届けてもらう形でそのまま直行で帰ることになりました。

2時間半くらいスタジアムの前に止まってやっと動き出して、護送車のまま高速に行って、そのままアパートまで帰りました。もうすぐ着くくらいのときに誰かインドネシア人が『えっ、人がめっちゃ死んだらしいよ』と。マジで信じられませんでした。

『え、死ぬの?』と。ただそれがアパートに着いて、みんなが護送車から降りてマネージャーから『いまのところ70人くらいが亡くなっちゃっているらしい』と聞きました。だから『この試合のことについては何もインスタグラムとかに上げるな』と言われました。本当に何とも言えない感じでした」と驚がくしたという。