自動車レースの最高峰、F1は、大所帯のチームが世界各地を転戦することから、「F1サーカス」と呼ばれることがある。

サッカー界においては、ブラジル代表が「フットボール・サーカス」のイメージに近いだろうか。激しいW杯予選をこなしながら、欧州やアジアなど世界各国で親善試合を行う。自らがサッカーを心から楽しみ、観客に対して魅せることも決して忘れない、最高のサッカーの伝道者といえる。また、近年は欧州の強豪クラブもオフシーズンの国外遠征が日常化。ファンの数なら決して本国にも遅れをとらない北米やアジア地域などでマーケティングを重視した興行を行っている。プレシーズンとしては練習時間の減少などマイナス面も少なくないが、“先立つもの”がなければ頂点に立てないことはトップクラブであればあるほど痛感しており、また普及という意味でもサッカー界にとって大事なことだ。

「フットボール・サーカス」の重要度の高さは誰もが認めるところだと思うが、では「サーカス・フットボール」はどうだろう。2008年のバロンドールに輝いたクリスティアーノ・ロナウド。彼のプレーは、2003年のマンチェスター・ユナイテッド加入当初から世界中のサッカーファンの目を奪ったが、偉大な選手と認識されるようになったのは比較的最近のことだ。特にユナイテッドでの最初の2年間は、無駄なフェイントや独りよがりなプレーに対する批判が収まることはなかった。

スウェーデン王者のAIKに所属するマルティン・ムトゥンバもそうした選手の一人である。技術をひけらかすようなドリブル。無駄なフェイント。相手をおちょくる動き。競技という点では決して良いプレーとはいえない。しかし、彼のプレーを見ているうちに、気づけば頬は緩み、ボールを触りたい欲求がどこからか沸いてくる……。そう、サッカーというスポーツをより楽しくしてくれる存在。それが彼ら、「サーカス・フットボーラー」なのだ。

「フットボール・サーカス」が人を呼ぶように、「サーカス・フットボール」もまた人を呼ぶ。クリスティアーノ・ロナウドやロナウジーニョの“無駄なプレー”が、ボールを足で扱うことの素晴らしさを世界に伝え、人々はサッカーの虜となり、子どもはそれを真似しながら成長していく。もちろん、そうした技術の使いどころを覚え、チームの勝利に貢献することで彼らの価値が一層高まることは間違いない。ただ、判断力は経験によって磨かれるが、華麗な足技をプロになってから身に付けることはできない。彼らはある意味、選ばれた選手たちなのである。

「サーカス・フットボーラー」が大成するかは本人の意識と周りの環境次第。もし、自分の応援するチームに未熟な彼らがいれば、喜びや楽しさよりもストレスを感じる試合の方がはるかに多いだろう。しかし、第三者から見れば立派なエンターテイメントだ。

イタリア代表監督のマルチェロ・リッピは、クリスティアーノ・ロナウドのプレーについてこんな言葉を残している。

「当初は彼が好きではなかった。必要以上にフェイントをかけるようなプレーは苛立つし、彼が人を不快にするのは誤った結果を招く。だが、あるとき気づいた。あれが彼のプレースタイルなんだと。相手に馬鹿にしているのではなく、あれこそが彼の表現方法なんだ」

プレーヤーであり、アーティストでもある「サーカス・フットボーラー」。彼らがサッカー界にもたらす力は、決して小さなものではない。

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