日本×イングランド戦。サインプレイを巧く使ったコーナーキックで闘莉王が先制点を上げ、その後、『両面で目立っちゃった』by闘莉王と中澤のオウンゴールで逆転を喫するという試合展開だったが、皆さんはどのような感想を持っただろうか。

誰もがイングランドをここまで苦戦させるものは予想していなかったせいか、岡田武史の解任論は一瞬にして消え、「良くなってきた」という声が増加の一途を辿っている印象だ。実際に英メディアも自国の代表を「OGで救われた」、「だらしのないスリーライオンズ」を酷評する裏で、逆に日本に対しては賛辞の言葉を送っており、日本国内一気にポジティブな論調になる理由もわからなくはない。だが、はたしてその考え方は適切なのだろうか?一夜経って冷静に見つめ直す必要があるのではないだろうか?

いくつかテーマを決めて、整理してみよう。


■確実に存在した数字以上の差

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数字上は1-2という惜敗であったが、内容面は「後一歩だった」と手放しで喜ぶことはできないものであった。早い時間で闘莉王が先制点を奪いリード状態に入ったが、点を取る前から攻撃面には大きな不安感が漂っていた。これまで日本が目指していたはずの素早いパスワークとムーブを結合させた積極的なアタッキングマインドは完全に消失。仕掛ける姿勢やチャレンジパスの少なさは目に余るものだった。これまで日本が「リードしたらとりあえず引いていこう」という消極的なプレイスタイルを取っていたら、何も問題はない。だが、これは彼らが目指していたものではなく、オーストリアのピッチ上で見せたそれは、“偽物”だったと言えるのではないだろうか。


■飛躍的に向上した闘うという意思

この日は、韓国との試合では微塵もなかった「闘うという気持ち」はテレビからでも伺い知れた。こき下ろされた韓国戦で輝きを放っていた数少ない選手(長友、大久保)は引き続き、その姿勢を継続させ、同試合を欠場していた闘莉王、キャプテンマークを渡された長谷部、アンカーという重責を担った阿部、正GKの座を狙い続けている川島らは明らかに目の色が違っていた。

スターティングメンバーの内、半数以上がこのような姿勢で臨めば、期待以上に善戦を見せることは予想できる。後は、その数を半数以上から全員に上げ、闘う集団になるだけだ。それを大前提としなければ、本大会での成功はない。


■技術面はメンタル面でカバー

この試合が行われる前、闘莉王を中心として選手主体のミーティングが開かれたそうだ。そこでの大きなテーマは「おれらは巧いわけじゃない。泥臭くいこう」という意識を共通するためのものだったと聞く。悪く言えば、弱者の戦い方と言えるが、それはこの日本代表にとって欠けていたものであった。これまでの彼らの戦い方は、指揮官がことあるごとに「日本のサッカーを。日本のサッカー」を繰り返したせいか、選手達もそのことばかりに目がいってしまっているのではないかと感じさせる内容であった。正直言って、現代のフットボール界において、自分達のサッカーだけに集中して勝利に結びつけられるような集団は、バルセロナかスペイン代表ぐらいだ。かのブラジル代表ですら、これまでのスタイルを捨て、“勝つため”のスタイルに転換している。自分達のサッカーを貫くことは重要だが、時には美学を捨てざるを得ない時がある。それがW杯において求められることではないだろうか。少なくともこの試合では見せていた、“下剋上のメンタリティー”は是非とも忘れて欲しくないものだ。


■軽視できない不安材料

まず、一つ目はサインプレイをこの時期に一つ使ってしまったことである。監督の岡田は試合後に「親善試合で勝ち切っても仕方がないので・・・」と振り返っていたが、ならば、このサインプレイも温存しておいてよかったのではないか?本大会で使う前に、どうしても実地試験をしたくなる気持ちはわかるが、貴重な得点源であるからこそ、最後の最後までしまっておいて欲しかった。

そして、二つ目が中澤、岡崎の存在だ。オシムも語っていたように、中澤、闘莉王、阿部の中央のブロックは、組織としては及第点の出来だったといえる。だが、個人として見てみると、中澤のパフォーマンスは「決して満足ができるものではなかった」と言えるのではなかろうか。もうかれこれ1年ぐらいになるだろうか。未だに不調から脱せずにいる。あれはガーナ戦で圧倒的な身体能力の前にゴールを許してからだろうか。彼の持ち味であった「積極的に先手を取る守備」は「相手を待ち構える守備」へと変化し、それが裏目に出るケースが頻出している。無論、世界を相手にすれば、「前に行って振り切られる」という怖さは常につきまとうものだ。だが、どのプレイにおいても消極的な守備方法を取っているようでは何の解決にもならない。時には、かつてのような意欲的なプレイを選択して欲しいものだ。自分のことだけに必死で周囲を引っ張るほどの余裕が感じられない元キャプテンを見て、切なさを抱いてしまうのは私だけだろうか。

そして、岡崎についても触れざるを得ない。アジア予選で救世主的な活躍を見せ、一躍、エースストライカーへと躍り出た“オカザムライ”だが、やはり、世界と相手をする場面では頼りなさを感じてしまう。他国と実力比較をすると、どうしても本大会では劣勢を強いられる時間が増えることになるだろう。そうなると、多少無理なボールでも前線で収めてくれる力が必要になる。しかし、岡崎にはその力が圧倒的に不足している。たしかに、彼の常にゴールを狙うスタイルと執念は日本にとって重要な武器であることは言うまでもない。だが、彼をワントップで起用するという選択肢は愚策であると言いたい。世界に目をやっても、彼のようなタイプを最前線に配置して成功を収めたチームは皆無だ。


■最後に

長くなってしまったが、6月4日に行われるコートジボワール戦に向けて、日本代表に期待する三点を明言して終わりにしたい。

1.それまでのスタイルを貫くのか、別のスタイルに乗り換えるかをはっきりと!

2.もう一度、(闘っていた選手を中心とした)スターターの見直しを!

3.また実力差を感じて、弱者の戦い方に徹する道も考慮すべし!

「決しておごることもなく、身の丈に合った戦い方を全身全霊で行う」。これが本大会の直前で彼らが出した結論になれば幸いだ。断言しよう。これさえ実践できれば、間違いなく日本はグループリーグ突破以上の結果を残せる。「全ては物の考え様」だ。「自分達は一体何するべきなのか」という問いに対する答えが、選手間で結束すれば、怖いものはなにもない。

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