カカの周辺が騒がしい。
2009年にミランからレアル・マドリーへと当時のレートで約92億円という超多額の移籍金で移籍したカカであったが、眩いばかりの輝きを放ったミラン時代と比べると、レアルでの現状は寂しいものであると言わざるを得ないのが現状であり、移籍市場が開く度に恩師カルロ・アンチェロッティが率いるパリSG、古巣であるミランへの移籍が取り沙汰されている。特に派手好きで知られるシルヴィオ・ベルルスコーニが名誉会長に就任したミランへの復帰説は有り得る話だろう。
だが、現在のミランにカカは必要なのだろうか。今回の当コラムではミランを率いるマッシミリアーノ・アッレグリがトップ下の選手に求めるものについて考察していきたい。
・何よりも「バランス」を重視するアッレグリ
アッレグリが採用するシステムはミラン伝統の4-3-1-2である。このシステムはアンチェロッティ政権時から受け継がれてきたミランのスタンダードであるが、アンチェロッティとアッレグリでは4-3-1-2に対する考え方が違う。
アンチェロッティが築き上げたのはアンドレア・ピルロ(現ユベントス)をレジスタとして起用する「ピルロ・システム」であった。このシステムではピルロがポゼッションの軸となり、中盤の底の位置から長短の正確なパスで攻撃を牽引。ピルロの周辺にはハードワークを得意とする「潰し屋」の選手(ジェンナーロ・ガットゥーゾ、マッシモ・アンブロジーニ)を置き、ピルロをプロテクトするのが基本であった。
しかし、アッレグリはこの「ピルロ・システム」からの脱却を図った。アッレグリは「潰し屋」(アンブロジーニ、マルク・ファン・ボメル)を中盤の底に置き、ピルロを左のインサイドハーフとして起用したのだ。(結局、ミランで居場所をなくしたピルロはユヴェントスへと移籍。新生ユーヴェの絶対的な司令塔として活躍している。)ピルロは世界有数の司令塔であるが、守備のスペシャリストではない。アッレグリは中盤の底に相手の攻撃の芽を摘め、なおかつ、ある程度(ピルロ程ではないにせよ)ボールを繋げる選手を起用することで「バランス」を取っているのだ。
そして、両者の考え方の違いはトップ下で起用する選手にも表れている。
アンチェロッティ政権ではいわゆる「ファンタジスタ」がトップ下を務めてきた。(マヌエル・ルイ・コスタ、カカ)いずれも単独で試合を決めることができる選手であり、典型的な「10番」タイプの選手でもある。
一方、アッレグリがトップ下の選手に求めるものはファンタジーではない。現在、トップ下で起用されているのはケヴィン=プリンス・ボアテングであり、彼の不在時にはウルビー・エマヌエルソン、クラレンス・セードルフ、ロビーニョがトップ下を担っている。
特に、アッレグリに重宝されているボアテングは一般的な「トップ下像」と異なる選手である。トップ下の選手と言えば、絶妙なスルーパスや抜群のボールスキルを持っている選手を思い浮かべるが(メスト・エジル、ダビド・シルバ、フアン・マタ、ヴェスレイ・スナイデル、香川真司など)、ボアテングの最大の武器はスペースに飛び込む動きとそのタイミングの良さであり、トップ下よりもインサイドハーフの位置で起用した方が持ち味を発揮するタイプだと言える。
しかし、アッレグリはボアテングをトップ下のファーストチョイスとしてきた。
それには、現在のミランの絶対的な柱である選手が関係している。
・「王様」イブラヒモヴィッチとの相性
現在のミランの柱はズラタン・イブラヒモヴィッチである。これまで、所属したクラブ(アヤックス、インテル、バルセロナ、ミラン)を優勝に導いてきた「優勝請負人」だ。
イブラヒモヴィッチと言えば、カッとなりやすい点を除けば、これといった欠点がないスーパータレントである。長身を活かしたボールキープ、圧倒的なフィジカル、抜群のボールテクニック、驚異的な決定力。よく「イブラ頼み」という言葉を耳にするが、これほどのスーパータレントがいれば、その選手を軸にしてチームを作るのは当然のことだろう。
現在のミランでは、イブラヒモヴィッチがトップの位置から中盤に下がって来て、組み立てを担っている。他の選手にはイブラヒモヴィッチが作ってくれる時間とスペースを有効活用することが求められるのだが、その恩恵を受けるのがボアテングなのだ。
前述したようにボアテングはスペースに飛び込む動きが秀逸である。イブラヒモヴィッチが作った「ギャップ」を突くのにこれほど適任の選手はいない。つまり、イブラヒモヴィッチが戦術のキーマンであるがために、ミランのトップ下の選手には「ファンタジスタ」よりもボアテングのような「飛び出し」を武器とする選手が求められるのだ。
・ミランが獲得すべきはカカではなく・・・
このような点を踏まえると、ミランが獲得すべきなのは、怪我がちなボアテングの代役として(あるいはそれ以上の)活躍することのできる選手だろう。
スペースに飛び込む動きが秀逸である選手と言えば、フランク・ランパード(セルシー)、クラウディオ・マルキージオ(ユヴェントス)、マレク・ハムシーク(ナポリ)といった選手が思い浮かぶが、いずれも獲得へのハードルは高い。(この中では、昨夏も接触したハムシークが一番可能性が高そうだ)しかし、ボアテングに刺激を与えるためにも、ボアテングと同じ特徴を持つ実力者を獲得すべきではないだろうか。
もちろん、カカの帰還は多くのミラニスタを熱狂させるものだと思う。しかし、そのプレーぶりがカカを想起させる超逸材ステファン・エル・シャーヴィ、心臓疾患から復帰したアントニオ・カッサーノという「ファンタジスタ」がすでにチームにいるだけに、カカが現在のミランに必ずしも必要な選手とは言い切れない。
とはいえ、少年時代にカカのプレーに夢中になった筆者にとってカカは特別な選手であり、再びロッソ・ネロ(イタリア語で赤と黒の意)のユニフォームを纏って欲しいものだ。そして、きっとそれはベルルスコーニも同じだろう。
2012.4.20 ロッシ
※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。
筆者名 | ロッシ |
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プロフィール | 鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援している大学生。今シーズンはプレミアリーグを中心に観ていく予定です。当コラムに関する、感想、意見等がありましたら、下記のツイッターアカウントにどしどしお寄せ下さい。 |
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