少し長めになるが、開幕戦と現状から見えたいくつかのポイントを挙げていくことにしよう。

① 課題はやはりビルドアップとセンターハーフ

これに関しては言うまでもなく昨シーズンからの課題であり、選手起用を含めてどのように改善していくのか、未だ模索中だろう。ルーニーはこの点で自身の戦術的重要性を示したが、状況は未だに不透明である。クレヴァリーとアンデルソンではやはり精密なビルドアップやゲームメイクは望めない。ただし、プレシーズンでもアンデルソンを積極的に起用しているあたり、モイーズも理解している様に見える。他のポジションと比べれば明らかに枚数とクオリティが落ちるため、キャリックを軸にしつつも、アクシデントに備え、アンデルソンとクレヴァリーを競わせて、少しでもクオリティを引き上げようとしている。ユナイテッドを愛する方なら、アンデルソンが試合から遠ざかれば丸くなることはご存知の方が多いはずなのでお分かり頂けるだろう。プレシーズンはモイーズブートキャンプと言わんばかりに起用されていた。

また、CBの組み合わせにもよるのだが、開幕戦のリオ&ヴィディッチを見る限り、やはりバイタルエリアで頻繁に出し入れされるとなかなか難しい。加齢と、フィルター型のCH不在から、どうしてもここが薄くなってしまう。ビルドアップがうまく行かなければ、ボールロストした場所によってはここを埋め切れずにやられることが昨シーズンよりも増えそうな気がしなくもない。キャリックに係る負担は今年もかなりのモノになるはずだ。そもそも純粋なCHの数が足りていないことが問題だろう。キャリックとクレヴァリー、アンデルソンしかおらず、昨シーズンを思い返せばルーニーと香川、ギグスにジョーンズで埋めることになる。本当にダレン・フレッチャーの早期復帰を願うばかりだ。

② ルーニーの去就

ベイル、スアレスと並んでプレミアや世界の勢力図を変える可能性を持つタレントがマーケットを賑わせており、未だにこの三名の騒動は終わりを迎えていない。ユナイテッドは放出の意思は無いとしているが、チェルシーはオファーを続けている。しかし誰もが言うようにユナイテッドが国内のタイトルを争うクラブに売るはずもなく、事態は平行線のままだ。

ここで状況を整理するが、ルーニーは自らの口からメディアに向かって公式に移籍を志願してはいないはずだ。サー・アレックスのコメントで明らかになったので、移籍志願したことは間違いないはずだが、残留するとも移籍するともまだどちらも明確にはしていない。ただ選手や他クラブ、ユナイテッドから出るコメントを見る限り、未だに溝があることは明らかだ。移籍を難しくしているのは様々な思惑が一致しないからである。ユナイテッドとしては移籍を断固拒否しているわけではないのだろう。サー・アレックスが明らかにしたのは、国外のクラブが手を上げることを見込んでのことだったと推測される。しかしPSGもスペインの2強も、バイエルンも手を上げず、したたかにチェルシーのみが公式に手を上げただけだった。当然国内のクラブ、しかもチェルシーに売るはずはない。しかしルーニーからすれば、来年のブラジルW杯に向けて、リスクを負う移籍は避けたいはずなので、国外は考えたくない。移籍するならラブコールを送るモウリーニョの元が一番低リスクだ。チェルシーにしても現状のFW陣にはいないタイプの万能型は非常に大きな戦力だ。さらにタイトルレースの相手であるユナイテッドを揺さぶることができれば一石二鳥である。

マーケットはまだ閉まってはいない。このままルーニーを含めた三人がそのまま残留するかもしれないし、ビッグディールが成立する可能性もある。いずれにせよ、クラブへの忠誠を何より大事にしてきたサー・アレックスが作り上げた伝統を二度に渡って背信したことに変わりはない。プレー面で結果を導いたが、だからといって「はいそうですか」と残留を懇願するほど開き直れるサポーターばかりではない。クラブへの忠誠を誓えない者は放出されてきた過去がある。一度ならまだしも二度目だ。

ただし、ルーニー個人の気持ちに立って見れば、いくつか考える余地がある。おそらくだが、もともとメンタル面で不安定なことと、自身の多彩な才能故に、中心選手ながらも便利屋扱いされ続け、自身が最も輝くポジションと扱われ方にギャップが生じているのだろう、と推測される。ルーニーはルーニーというポジションに他ならず、ある意味では替えが効かないし、替えが効いてしまう。プレーの総合レベルはプレミアでも一番であることは疑いの余地はない。しかしプレーを一つひとつを見ていくと、クラブレベルではルーニーを超える特徴の持ち主が存在している。決定力に関してはファン・ペルシーやかつてのクリスティアーノ・ロナウドが若干上だった。その若干が非常に問題なのだろう。なんでも出来てしまうが故の葛藤なのだろうが、今現在あれほど前線で多彩なプレーをこなせる選手は他にはいない。ベストではないが限りなくベストに近いベター。ベストに近づくための悩みが移籍騒動だと考える。自身が最高のタレントでいるイングランド代表の様な扱われ方を望んでいるのかもしれないが、ここは世界最高を目指すマンチェスター・ユナイテッドであり、競争とクラブへの忠誠を誓わなければならない。最高の自分を追い求めるあまり、自分が何物であるかを見失っている。私にはそう見える。

③ モイーズの作る未来。

サー・アレックスという偉大という言葉では言い表せない指揮官の後は世界で最も難しい仕事の一つ、と言える。プレシーズンを見る限りではあるが、無理にベースをいじることはせずに、優勝した現有戦力を意地しつつ、競争とオリジナリティを徐々にくみこんでいくのだろう。世界でも限られた選手とクラブにしか持つことが許されない、“勝者のメンタリティ”を有することは非常に大きなアドバンテージである。しかしながら、サー・アレックスはそこに頼って戦術的に細かく的確な采配を振るうタイプではなかった。いささか疑問が残る采配でも、タイトルを獲得してきたのだから問題は無かったのだろうが、ごまかしてきたとも言えるところもある。特に前出のビルドアップの部分や、守備面での組織構築に関してはそう言えるだろう。対戦相手としてのモイーズは緻密過ぎる印象ではないものの、的確な采配やスカウティングを仕掛けてくるな、というイメージがあった。もちろんクラブや抱える戦力によって仕事も変わるだろうが、サー・アレックスにはなかった部分をアップデートして、更なる高見へと導いて欲しい、と期待せずにはいられない。

④ 補強は如何に

マーケットは閉幕しておらず、出て行く可能性も入る可能性もある。ルーニーの去就次第なところもあるが、フェライニが獲得できるのであれば層の薄いCHにとってはうってつけの人材だ。

セスクやチアゴといった選手を追い掛け回していたみたいだが、ポジション別の選手層を考えれば、ゴール前に顔を出す2列目の選手よりも、優先すべきは2,5〜3列目の選手であり、強力なフィルターを張れるタイプかタメとゲームを作れるビルドアッパータイプのどちらかである。

また、サー・アレックスの手足となっていたスカウティング陣がモイーズとフィットするまでにはまだ時間がかかるだろう。以前から追っていた人材をモイーズが必要とするとは限らないからだ。

他クラブが大型補強を繰り広げているが、戦力が多ければ優勝できるものでもない。それよりも現有戦力を正しく理解することのほうがモイーズにとっては優先すべきことであると考える。そもそもまだチームの形や方向性も手探りの段階だ。まずは色々と固まってからでも遅くはないのではなかろうか。一応、無理勝手な私個人の希望を出すとすれば、ルカ・モドリッチを推したいのだが、マドリーが出すことはないだろう。

今シーズンの獲得ではないが、加入という点ではザハのプレーがプレシーズンから目立っている。日本ツアーでもプレーし、ご存知の方も少なく無いと思われるが、リーグでもかなり期待してもいいと思われる。詳しくは別の機会に書ければいいと思うが、プレーの良さと共に、良い闘争心をピッチで示せるところは他の若手にはないストロングポイントだ。バレンシアやナニのコンディション次第だが、早い段階からスターティングイレブンに名を連ねてもおかしくはない才能の持ち主である。

まずはルーニー次第、ということに変わりはない。日本のマスコミのネタとなる香川もこれに大きく左右されることになることは疑いの余地はない。香川は特殊なタイプの選手であり、どちらかと言えば、入れ替えるような扱い方では生きないタイプだ。そしてまだモイーズと香川が、双方を理解しあうには時間が足りていないことを無視して、起用法云々は語れない。これにはもう少し時間がかかるのではないかと思うので、メディアが騒ぐほど気にし過ぎても仕方がない。

私個人としては、香川が活躍してくれることで、日本人として嬉しいような気持ちが無いわけではないが、それ以前に、マンチェスター・ユナイテッドを愛する者である以上、クラブのタイトルと勝利を強く望んでいる。香川が出ることで勝利を得られるに越したことはないが、香川がいなくてもクラブが勝ち続けるのであればまったく問題はない。それはルーニーも同様だ。そういった競争を経て、マンチェスター・ユナイテッドは数多くのタイトルを手にしてきた。チーム内での激しい競争を制することが出来て初めてピッチに立つことができる。

以上を私見の課題として挙げてみたが、みなさんの目にはどう写っているだろうか。もちろんまだ1試合しか終えておらず、チェルシー戦でまたいろいろな課題が見えてくるだろう。

あまりの決定力故、「FCファン・ペルシー」、と揶揄されることがあるが、タイトルが獲得できない他クラブの戯言と受け取って、今シーズンも勝利の美酒に酔いたいものだ。


筆者名:db7
プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ホームページ:http://blogs.yahoo.co.jp/db7crf430mu
ツイッター:@db7crsh01

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