【丸くなったモウリーニョ】

早くも第2節でこのカード。この2つのクラブはビッグではなく世界的メガクラブと表現するほうが適切だろう。チェルシーは足りなかったビッグイヤーを掲げたことで財政要素以外にも現代のメガクラブの資格を満たしている。と私は考える。故にメガマッチと表しても差支えは無いだろう。

さて、輝かしい記録と記憶を持ち合わせたポルトガル人指揮官が返り咲いたチェルシーはマーケットでも積極的に動いており、モウリーニョへの信頼と、タイトル奪還への姿勢は相当のものだと誰もが感じているはずだ。

イタリアとスペインを経て戻ってきたモウリーニョは実に「丸く」なっている。体型の丸みは年齢からくるものだろうが、それよりも表情の丸さが実に見て取れる。ポルトや前回のチェルシー就任期間の頃と比べて明らかだ。ツンツンどころかバッキバキに尖って睨みを効かせていた頃が嘘のようである。ユナイテッドがコテンパンにやられていた期間のことだ。忘れるわけがない。

ポルト時代や第一次チェルシー政権の時には多少虚勢的に自信を全面に押し出す戦略だったように思えたが、ロンドンに戻ってきてからの会見やインタビュー、振る舞いを見ている限り、経験と実績の積み重ねによるものなのだろうが、そうとう落ち着いて穏やかになったように感じる。この試合でも、かなり表情が柔らかくなっていることを改めて感じた。彼は楽しんでいる。 そして采配も丸くなっていた。

【探り合いの前半】

チェルシーの先発メンバーに純粋なCFがいない。奇策なのか様子見なのか。試合が始まれば戦術的探りあいの要素が強いことが即座に分かった。やはり丸くなっている。

モウリーニョへの前置きはこのくらいにして、この試合は場外でも相当な話題の種であった。言うまでもなく公式にルーニー獲得希望を表明しているチェルシーとそれを拒否するユナイテッド。ルーニーがプレーするのかしないのか、によって公式に自らの意思を表明していないルーニーの「答え」が出るのではないか、と推測されていた。パフォーマンスに問題がないことは前節で確認済み。おおよそプレーするのであれば残留。ベンチに名前がなければ移籍、というのが大方の見方だった。多くのメディアが先発メンバーの発表を待ちわびる中、ユナイテッドのスターティングラインナップにルーニーの名前があった。 サイドが本職のはずのシュールレがトップに入るという形のチェルシーと、前節の流れを受けたユナイテッド。試合が始まれば、予想以上にユナイテッドのボール保持率が高く、あまりボールを持てないチェルシーだったが、シュールレがタスク通りに前線から追いかけてビルドアップを阻害していた。ヴィディッチに入ったときには追いかけないが、リオにボールが渡れば追いかけて長いボールを蹴らせていた。空中戦ではチェルシーの最終ラインに分がある故だろう。ただしチェルシーもショートカウンターを狙って引き起こしたりするわけではなく、お互いいい形でシュートに持ち込めない時間が続いていった。ユナイテッドがセカンドボールを拾い上げ、押しこむ展開が続く。堅いチェルシーの守備陣を拡げようとルーニーがボールを引き出しワイドに展開。ただしそれでも決定機はほぼ作れず。前半はこのままホイッスルが鳴った。

大きく替える必要はなさそうだが、ユナイテッドは押し込みながらアタッキングサードでの精度と破壊力を如何にして高めるか。対するチェルシーはどこで交代カードを切って勝負に出るのか。探り合った前半を経て互いに交代無く後半のホイッスルが鳴った。

【曇った表情と対照的なプレーのルーニー】

晴れやかな表情とは言えないルーニーだったが、プレーは輝きを増していく。 ボールを引き出す動きは徐々に精度が上がり、効果的にボールがルーニーの元へと収まっていく。一方で、ピンチとあらば最終ラインまでラミレスを追いかけ、見事なタックルでボールを奪った。これには煮え切らない態度の主役にオールド・トラッフォードも湧き、彼のチャントが鳴り響いた。ただ、ルーニー以外のユナイテッドの前線は停滞気味で、特にファン・ペルシーは徹底的に監視されていた。ルーニーが下り目にプレーメイクすることでチェルシーはテリーとケーヒルの二人がかりでファン・ペルシーをチェックし、空中戦もほぼ仕事をさせなかった。ファン・ペルシーが中央で仕事出来ないことでウェルベックもいまいちな出来であった。中央に侵入しチャンスメイクする場面も少なく、ルーニーからの決定的パスもフイにしてしまった。もう少しファン・ペルシーとの流動的なポジショニングがあればもう少しチャンスを作ることができたのだろうが、チェルシーの最終ラインもかなり奮闘していたことは無視することはできない。

ボールポゼッションで押すユナイテッドだったが決定機らしい決定機は多くはなかった。チェルシーがトーレスを投入し、ややオープンな展開へと移行していく。ジョーンズがエリア内に侵入したアシュリー・コールを引っ掛けるなどの場面もあったが、アトキンソン主審は数々のハンド疑いのプレーを流しており、正直なにが帳尻合わせなのかわからないジャッジが続いた。

【目指す先は何処】

ユナイテッドもヤングやギグスを投入し圧力をかけるも崩しきるには至らず、互いにアタッカーを潰しあった結果スコアレスでタイムアップの笛が鳴った。 ポゼッション気味に優位に試合を進めたように見えたユナイテッドだが、崩しきるにはやはり足りない部分が見えた。ある程度意図してラインを上げずに、スペースを埋めたチェルシーに対して、持たされていた感は否めない。チェルシーのカウンターも効果的に数多かった、とは言えないが、ユナイテッドの両サイドのアタッカーはオープンな展開で活きるタイプ故、押し込んでスペースがない状態ではプレーの幅が少なくそこを露呈した形となった。そういった意味でバレンシアに替えてヤング投入は論理的だった。バレンシアよりもクロスの精度、動きが止まった状態からのオプションは豊富だからだ。ただしそれでもチェルシーの最終ラインの高さを打ち破るには至らなかった。これは結果的に仕方ない。ウェルベックも左足の精度が高くないため、左に配置されれば、右に切り返す場面が増えてしまう。押し込んだ状態でもブロックを作られては中央にスペースがないため、どうしても後手になりボールを下げざるを得ない。実際にそういった場面が多かった。また先述したようにファン・ペルシーとの流動的なポジションチェンジが少なく、相手に的を絞らせてしまった。ルーニーからのボールをサイドでのチャンスメイクではなく、ゴールに結びつけるような動きにするためにはこのあたりの動きをさらに学ぶ必要があるだろう。ルーニーのチャンスメイクも、ルーニー以外の前線3人がポジショニングを固定させ過ぎてダイナミズムが足りなかった感は否めない。

クレヴァリーやキャリックの動きにも触れてみよう。セカンドボールをことごとく回収したこの二人によって押し込みながら試合を進められたことは言うまでもない。特にクレヴァリーの動きはビルドアップも含めて前節よりもいい出来であった。しかしさらに高い要求をするのであれば、相手を押しこみつつも、あの位置からルーニーを追い越して、相手のエリア内に侵入するべきだった。もちろんチェルシーの二列目を抑えるという役目が如何に重要であるかは承知の上だが、あの状況でチェルシーの堅い守備を崩すにはやはり三列目からの飛び出しが欲しかった。今後もポゼッションを高くなる試合が増えれば増えるほど、この動きは必要になってくるはずである。

試合をする上でボールポゼッションが高いことに越したことはないが、そうなった際のオプションやプレーの幅、選択肢や崩しの精度がまだまだ足りないことが改めて分かった試合であった。モイーズがどのようなフットボールを目指し、遂行していくのか、それについて語るには材料が少なすぎる。もちろんここには香川やそれ以外の選手の起用法を含めるものだ。しかし現状、ルーニーがこのパフォーマンスを続けるコンディションであり、残留するのであれば変に今の形を崩す必要はないだろう。それをルーニーはピッチで表現したことに疑いの余地はない。もっとも、モウリーニョが試合後の会見で触れたように、ルーニーが公式な自身の意思を表明する必要があることは言うまでもない。これだけあのポジションに置かれてプレーできることを分かっていながらも最前線にこだわるのであればどうしようもないだろう。この件が終わるのはまだまだ掛かりそうだ。

相手方の選手になるが、シュールレという選手は非常に興味深く映った。体格に優れ戦術理解度も高く、ハードワークを厭わない。モウリーニョにとっては非常に使いやすい駒だろう。タスクを追った前半も悪くなかったが、後半に本職のサイドに移ってからも、動きは良さそうに見えた。二列目の駒が非常に豊富なチェルシーのアタッカー陣の中でも貴重な存在になるのではないだろうか。顔の系統がフォルランの様に感じたため、チャド・マレーンのフォルラン、プジョルに続くものまねネタになりそうだな、と思ったが流石にまだまだネームバリューが足りない。こんなことを思うのも、引き分けが悪くない結果に映ったからだろう。

ゴールこそ無かったが見どころは非常に多い試合であった。みなさんの目にはどのように映っただろうか。


筆者名:db7
プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ホームページ:http://blogs.yahoo.co.jp/db7crf430mu
ツイッター:@db7crsh01

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