【妥当なドロー】
ぶった切ってしまえば妥当な結果がカーディフについてきた。マンチェスター・ユナイテッドはスタンドで声を上げるカーディフを応援する者達をも相手し、その勢いに押されていた。結果はドローながら限りなく押し切られたドローだと言っても過言ではないだろう。
【偉大なるキャリックの不在】
契約延長は確実と見られていたキャリックだが、予定通り発表となった。だが、この日のピッチに彼の姿はない。過小評価されがちな選手で時にはミスもある。しかし不動の左サイドバックであるパトリス・エブラと共に、サー・アレックスの作り上げた晩年のチームに欠かせない安定感をもたらしている事実は改めて述べる必要はないだろう。そんなキャリックが怪我で離脱したことで、ユナイテッドのバランスはあっさり崩れてしまう。
中盤のバランスを取ってビルドアップしつつゲームメイクをする、ということを上手くやっているのがキャリックであり、彼が抜けたおかげで全部崩壊したよね、というのがカーディフ戦だった。あのポジションを示す言葉はいくつもある。センターハーフだとか、ディフェンシブ・ハーフ、ボランチ、ピボーテ、アンカー、3列目、などなど選手の特性やチームの戦術などによって様々だ。個人的な見解と言葉で評すると、キャリックは3列目と2.5列目状況に応じて使い分けられる選手であり、これがユナイテッドにとっては非常に大きい役割を果たしている。この試合に起用されたクレヴァリーとフェライニはどちらも2.5列目の選手であり、また特性も水と油である。それが見事に見て取れた試合であった。
クレヴァリーとフェライニはどちらもゲームメイカーでもなければビルドアッパーでもない。前か圧力を掛けにくるカーディフにとっては実に好都合なチョイスだ。事実、ルーニーやヤヌザイらが足下で欲しがっても、ビルドアップが得意としない中盤からのパスに怖さはなく、苦し紛れのロングボールも精度が高くない。エブラにしてもスモーリングにしてもチェックにいくだけで簡単に精度の高くない中途半端なボールを前に蹴ってくれる。クレヴァリーもフェライニも共にサイドバックへサポートする動きが遅い又は無いので、サイドバックは前に蹴らざるを得ないからだ。後半は見事にここを強化されてやられた格好であった。
ビルドアップにおいて、クレヴァリーは動くが気の利いたポジショニングができない。フェライニは動かないし気の利いたポジショニングができない。味方のボールを引き出すレシーブもなければ、ボールを受けてもその先がないパスに球離れの悪さでビルドアップなんて言葉は存在しないかのようであった。あんな酷いものはなかなか見られるものではない。実に前後左右の選手がやりにくそうにプレーしていた。潤滑油になるべきポジションが錆びだらけだと、こうも力が発揮できないのだ。キャリックの不在を嘆くと共に、ポール・スコールズを懐かしむ気持ちが止まらない。
【押せないし、仕留められないし、仕留められかけるし】
これまでであれば、ヤヌザイがうまくドリブルを使っていて押し返し、チャンスメイクをしていたのだが、いかんせんこの日は賢くプレーすることはなかった。複数人に囲まれながらもそこに突っ込んで無理な突破を繰り返しボールロスト、ボディコンタクトですっ転び、徐々にリズムを失ってまずいボールロストを繰り返す。彼の良さは開始10分以降ほぼ見られなくなった。若さとはこういうものである。
得点シーンを振り返っていくと、先制点はいい形で取ることが出来た。ユナイテッドも前線からカーディフのビルドアップの拙さを突いてバレンシアのパスカットから一気にルーニーが仕留め先制に成功。しかしその後カーディフにビルドアップの拙さを狙われ、ミスも立て続いて流れを明け渡したところを元ユナイテッドのキャンベルにやられてしまう。体勢が崩れながらのスルーパスも見事であったが、その時のフェライニとクレヴァリーのポジショニングが非常に曖昧であったことにも触れておく。さらに言えば、この試合、キャンベルはマッチアップしていたエヴァンス相手に素晴らしいプレーを見せていた。下部組織時代を含めてほぼ同年代で、同時期にトップチームに上がり、ベルギーにもレンタルされた仲だ。互いをわかっていると言ってもいいのかもしれない。
前半終了間際、CKからエブラのヘッドで勝ち越すも、後半、逆にセットプレーからやられてしまう。ここまででも相当堪えたが、その後ルーニーが撃てば劇的、な場面でウェルベックに中途半端なボールを落としてしまい自爆。おそらくだがルーニーは色々と見えすぎた結果迷って中途半端になってしまったのだろう。あの内容でも勝てば寝不足などなんのその、だったがそうもいかなくなってしまった。フラストレーションが3倍になった気分で朝を迎えることとなった。
【フェライニをどう使うべきなのか】
移籍金の割に大した仕事をしないと滅法評判が立ってしまったフェライニではあるが、この試合だけではなく何試合か見ていてもまだまだフィットしていないのは明らかである。コンディションの問題ではなく周りと本人の問題だ。彼がどのようなプレーをするのか、したいのか、出来るのか、というコミュニケーションの部分が圧倒的に足りていないし、また彼自身も周りのプレーとのリズムや相互理解が追いついていない。加入がギリギリだったこともあって、時間がまだかかることは仕方がない。過去にも触れたが、エブラもヴィディッチも加入して半年は苦しい時間が続いていたからだ。移籍金故の期待は仕方ないが、今しばらく時間がかかることは理解しなければならない。と言い切るには不安なプレーに終始したが嫌でも避けて通れない問題である以上納得しなければやっていけない。
個人的には先に述べたように、フェライニは2.5列目の選手であると考えている。そのためにはキャリックと組み合わせて、キャリックの少し前でプレーしてもらうしかないだろう。そもそもそれ以外潰しが効くスキルは持ち合わせていないのは明らかで、大きな身体をどう活かすのかと問われると受け身のプレー前提になってしまうのは現状致し方ない。いい意味でどっしりと構えてプレーしてもらいたいものだが、それが実現するのはまだ先の話になりそうだ。キャリック不在の間は悩ましい。
【超ハードスケジュールのここからが正念場】
ウィンターブレイクのないプレミアリーグ。ユナイテッドは12月中に、実に9試合が予定されており、毎週2試合ペースだ。ターンオーバーは避けて通れない故に、いかに勝ち点を落とさずに年末年始を乗り切れるか。例年であればこの時期に首位に立つか立たないかの争いを繰り広げることになっている。が、例年通りには行きそうになさそうなのが見通しだ。賢く戦うにしても、サー・アレックス・ファーガソンがもたらしていた勝者のメンタリティー、というものに頼ることは出来ない。目の前の試合に全力を注いて勝ち点3を取りに行き、コツコツ貯めていく他に近道はない。苦しくてもハードワーク、目の前の試合も、優勝のかかった最終節も、勝ち点3が4になることは無いのだから。
日本時間では25日の試合。ジョージ・ベストの命日を白星で飾ることが出来なかったことが残念でならない上に、このコラムを仕上げている途中でビル・フォルケスの訃報まで飛び込んできた。フォルケスがどれほどのレジェンドであったかは私が述べるよりもGoogleに尋ねて頂いたほうが分かりやすいと思うので割愛させていただくが、ミュンヘンの悲劇の奇跡的な生還者の1人であり、その後直ぐにキャプテンマークを巻いた選手だ。日本での指導経験もある、ということには触れておこう。偉大なるレジェンドがまた1人この世を去ってしまう寂しさと、彼らの築き上げた功績に恥じない戦いを改めて見せなければならないと思う他ない。ミュンヘンの悲劇のメンバーとあちらで美味いビールを飲み交わしながら再開しているだろうか。安らかに眠ることを願う他ない。
筆者名:db7
プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
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