中→外。二段構えの攻撃。

内側での攻撃を意識させることで相手の守備陣を中央に絞り、そこから外へ展開する。シンプルにして、最も効果的な方法だ。外へ意識させれば中も空くし、中を意識させて再び外を使うことも出来る。今回優勝したドイツもこういったプレーは得意技だし、昨日U-19欧州選手権で優勝したドイツU-19の選手たちも意図的にこういったプレーを行っていた。勿論日本代表もこういったプレーはいくつか見せていた。問題は、その数が決定的に少なかったことだ。

ギリシャ戦動画の4分39秒からのシーンが非常に印象的だ。内側に入ってきた香川がボールを受け、サイドバックを釣りながら岡崎が縦へ。本田と岡崎へのパスを予測したDF陣が中央に意識を向ける。そこでサイドバックの裏へ抜け出した内田への浮き球。この時点でDFは全員がボールを確認するために内田側に振り向くことになる。そして、彼らが振り向いている間に、大久保がDFのマークを外してファーへ。高さに勝り、試合を通して高い集中力を保ち続けたギリシャ守備陣でさえ、この場面では完全に崩された。相手の予想を外し、目線を動かすことの重要性が良くわかる形だと言えるはずだ。

ギリシャ戦の6分44秒からのプレーは、成功はしなかったものの、今回のW杯において最も理想的な形だろう。中央に入って行く香川から本田へ、そのまま中を崩しに来ると見たギリシャ守備陣は本田のスルーによって完全に間合いを外されている。この時間帯ではギリシャが退場もあって、5人で引いているのでチャンスにはならなかったが、フリーランした選手と香川、本田、内田の意志がしっかりと共有出来ていることが解る場面と言える。

この2つの場面のように、日本は本田や香川の内側でのプレーを使うことで、守備陣に駆け引きを仕掛けるべきだった。シンプルで解りやすい攻撃でなく、相手を迷わせるような工夫こそが必要だったのである。実際、空中戦に強いギリシャやコロンビアの守備陣が相手でも、「読みを外す」ことが出来れば、空中戦が通用しない訳ではなかった。本田が外に流れていったことで、コロンビアの守備が対応しきれなかった岡崎の得点シーン(下のコロンビア戦動画4分から)なども、サイド攻撃が非常に上手くいった形と言えるだろう。

面白いことに、練習試合で上手くいった中央からの突破ではなく、本番でチャンスになったのは外からの崩しを起点としたものが多かった。これには勿論考えられる幾つかのファクターがある。

1つは、相手がしっかりと日本をスカウティングしていたことだ。フットボールライター、マイケル・コックス氏は「日本代表は練習試合とは思えないほどのハードワークを見せる勤勉なチーム」と日本代表を描写したが、それは逆に考えれば、親善試合で手の内を大部分明かしているということでもある。クラブレベルにおいても、プレーの幅広さというよりは個々の武器で勝負している本田・香川の両エースの分析も、そこまで難しいことではなかったのだろう。実際ギリシャのフェルナンド・サントス監督は試合前に「日本代表をしっかりと分析した」とコメントしていた。

一方、前半に退場者が出たギリシャ戦のように、相手の事情で中央に人数が集まってしまったという点も考慮すべきだろう。また、中央から崩す上で本田と香川が本調子ではなかったことも、当然ネガティブに影響した。

本田や香川といった選手は、ドルトムントやCSKAでの活躍を見ていても解るが、「使われる」ことによって真価を発揮する。チームとして彼らを使ってあげるような形であれば十分にトップレベルでも仕事が出来るものの、個のスピードやパワーで全てをどうにかするような選手ではない。ましてや、中央を強靭な肉体を持った守備陣にしっかりと固められた状態で仕掛けていっては、チャンスを作ることは難しい。

コロンビア戦では、6分28秒からのシーンが典型的だ。香川はギアを上げてもらっていないタイミングでボールを受けており、そのままシュートを打つものの、密集地でコースはある程度制限されてしまっている。どちらかというとこの場面では一度左サイドに振っておき、そこに香川が俊敏性を生かして走り込む形でこそチャンスが広がったのではないか。コロンビア戦動画の7分45秒からの場面も、非常に悪い形だ。狭くなっている中央への香川へのボールをカットされてカウンターを受け、そのままシュートに持ち込まれた。コロンビア戦、8分15秒からのシーンも、弱いパスを中央に送ったことで本田の位置でボールを奪われ、3失点目に繋がってしまった。

勿論日本代表の選手達のクオリティ、技術の側面は疑いなく向上している。本田はACミラン、香川はマンチェスター・ユナイテッド。トップクラスのチームにも求められる選手たちの育成に成功していることは、日本フットボール界の地道な毎日の努力によって成し遂げられたことだ。しかし、その技術を「どのように使っていくか」という部分において、日本代表というチームは非常に不安定だ。勿論今回、例として取り上げたように個々が技術を上手くチームに還元した崩しもあった。しかし、明らかに数自体は少なかったと言わざるを得ない。また、こういった駆け引きは一部の選手に依存していたことも触れる必要があるだろう。コロンビア代表や、コートジボワール代表のように、絶対的なフィジカルやテクニックで勝負するフットボールが簡単ではない一方、頭を使った駆け引きであれば付け入る隙はある。

今回日本代表の選手は「自分たちのサッカー」という言葉を強調したが、それはヨーロッパで経験を積んだ選手達が自分たちに足りないものを知り過ぎてしまったが故の「マイナス思考」な発言だったのだろう。ヨーロッパのレベルを知る選手たちは、日本が空中戦や個人技頼みのサッカーでは通用しないと考え、ザッケローニのサイド攻撃中心のサッカーではなく、自分たちの特性を生かすサッカーを試みた。しかし、それは結果的に、自分たちの特性を生かす道をも閉ざしてしまっていたのである。

駆け引きしながら読みを外してしまえば、高さがなくても空中戦でゴールを決めることは出来る。まずはそこを理解し直すことが必要だ。そして、外からの攻撃は結果的に中での攻撃に生きることも忘れてはならない。176cmのマリオ・ゲッツェが、W杯の決勝戦でセンタリングからゴールを決めたように。ニアゾーンを狙うようなボールに加え、タイミングを工夫した外からの攻撃を狙っていくことで攻撃の幅は広がるはずだ。今回の結果にネガティブになり過ぎるのではなく、プラス面をしっかりと見つめ直すことで今後の飛躍を期待したい。こういったプレーが出来ない訳ではない、だからこそ重要なのは、「どれだけ狙って仕掛けられるか」ということになるのだから。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
ツイッター: @yuukikouhei

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想などはこちらまで( @yuukikouhei)お寄せください。

【厳選Qoly】日本代表の2024年が終了…複数回招集されながら「出場ゼロ」だった5名

大谷翔平より稼ぐ5人のサッカー選手