イングランドサッカー界から「立ち見席」がなくなって久しい。
かつてそれは、イングランドの大切な文化であった。スタジアムのゴール裏には必ずそういった混沌とした空間が広がっていた。しかし、とある事件を境にそうした場所はとことん排除されることとなった。
New inquests to begin into deaths of 96 football fans in 1989 Hillsborough disaster
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— BBC News (UK) (@BBCNews)
2014, 3月 31
1989年4月15日、シェフィールドのヒルズボロ・スタジアムで発生したヒルズボロの悲劇である。
「英国スポーツ史上最悪の事故」と呼ばれたこの事故では96もの尊い命が奪われ、この事故の調査報告書『テイラー・レポート』を契機に、英国ではスタジアムの立ち見席が撤廃され、全ての席に座席が設置されている。
THREE HOURS TO GO Where are you watching the opening day of the 2014/15 #BPL season? #BPLkickoff pic.twitter.com/6I2O9nkjeI
— Premier League (@premierleague) 2014, 8月 16
しかし、そんな大事故から25年が経過した今、再びイングランドのスタジアムで立ち見席を復活させようとする動きがあるらしい。英国『Mirror』の中からご紹介しよう。
今回立ち上がったのは英国の政党の一つである自由民主党。記事によれば、自民党はプレミアリーグやチャンピオンシップで立ち見席の導入を検討しており、各クラブが立ち見席を設けることが可能となるような政権公約(マニフェスト)を掲げるというのだ。
しかし、立ち見席と言っても様々である。
今回自民党が検討しているのは"rail seating"と呼ばれるもの。可動式の椅子が設置され、危険防止のための鉄柵が設けられた立ち見席だ。
RT
@ReadingFC: Rail seating was shown outside Madejski Stadium as part of @The_FSF Safe Standing Roadshow pic.twitter.com/4jEJfpNndW
— The FSF (@The_FSF)
2014, 2月 14
これがそのイメージ写真。
着席から起立までスムーズに移行でできるのが特徴だ。ドイツのスタジアムをイメージすれば分かりやすいかもしれない。英国ではヴィラ・パークの旧ホルト・エンドがそのスタイルであったが、上述の決まりにより1994年に撤廃されている。
"rail seating" の導入により、自民党はサポーターはより安価でチケットを購入できるようになると考えているようで、現在高騰が止まらないプレミアリーグのチケット価格問題がその理由にはありそうだ。
その証拠に、この"rail seating"を導入しているドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンと、プレミアリーグで昨シーズン最もチケット料金が高かったというアーセナルを比較してみよう。
バイエルンのシーズンチケット価格:
150ポンド(およそ2万5800円)
アーセナルの最安シーズンチケット価格:
1014ポンド(およそ17万4000円)
実に6.76倍!一概に比較できない部分はあるが、収容能力の問題からか安価で収まることは間違いないようだ。
自身もマンチェスター・シティのサポーターであり、シティのシーズンチケットホルダーでもある自民党のジョン・リーチは以下のように語っている。
ジョン・リーチ(英国自由民主党議員)
「1980年代にあったテラスの復活を求めているわけではない。"rail seating"を用いた現代型の安全な立ち見席エリアの導入はヨーロッパ中で成功している」
今後この議題がどう進むかは分からないが、高騰し続けるチケット価格により、こうした対策が検討されていることは間違いないようだ。それほどまでに、プレミアリーグのチケット料金は異常であるのだろう。
最後に、『Mirror』の記事内で行われたアンケート結果をご紹介する。内容はもちろん、「安全な立ち見席を復活させるべき?」だ。
チケットが安くなる可能性があり、独特なオールドファッションな文化の復活に賛同する意見が圧倒するのかと思われたが…彼らの心には、やはり25年前の教訓が根強く残っているのかもしれない。
※アンケート結果は2014年8月22日17:30現在