現地時間27日、欧州各地でUEFAチャンピオンズリーグのプレーオフ2ndレグが行われた。

この日行われたのはビルバオ対ナポリやアーセナル対ベシクタシュなどの5試合。全てのゲームが日本時間午前3時45分にキックオフし、試合終了予定時刻である午前5時30分過ぎには本戦に出場する32チームが決定するはずだった。

しかし、唯一90分で決着がつかない試合があった。ブルガリア王者ルドゴレツ対ルーマニア王者ステアウア・ブカレストの一戦である。

この日行われた全ての試合の中で最もシブかったであろうこの試合。そもそも、ルドゴレツというクラブを知っている人はかなりヘビーなサッカーファンだ。両チームによる1stレグはステアウアのホームで行われたのだが、ステアウアはこれを1-0と先勝していた。

そして迎えた2ndレグ。試合は1-0のまま進む。このまま終われば当然ステアウアの勝利なのだが、試合終了間際の90分にルドゴレツが同点弾を挙げ、なんとか同点にし試合は延長戦へと進んだ。

事件はこの延長戦で起きる。 延長後半終了間際、ルドゴレツのGKストヤノフが退場処分を受けたのだ。ルドゴレツはこの時点ですでに3名の交代枠を使い切っていた。当然、新しいGKを投入することができない。

試合は結局1-1でタイムアップ。試合はPK戦に委ねられたのだが、ルドゴレツにはGKがいない。では、どうしたのか?

この日CBとして出場していたコスミン・モツィがGKを務めたのである!しかもこのモツィはルーマニア人。ルーマニア王者相手のPK戦でルーマニア人が臨時GKとして立ちはだかるのだから、いささか皮肉なものである。

試合中に交代枠を使い切った中でフィールドプレーヤーがGKをする例は聞いたことがある。しかし、UCLという大きな舞台への出場権がかかったPK戦でフィールドプレーヤーがGKを務めるといった例は、前代未聞に近いのではないだろうか。

控えGKのユニフォームを着るも、やはりどこか不安を感じるモツィの後ろ姿・・・。

この試合はルドゴレツのホームであったが、誰もがルドゴレツの敗退を予想した。なにせ相手はUCL出場経験のあるステアウアだ。そして何より、ゴールを守るのは“本物”のGKであるのだ。

夢の舞台まであと一歩に迫りつつも、サッカーとはどれほど儚いものか・・・。誰もがそう思った時だった。モツィに何かが宿る。

止める!

止める!!!

勝利!!!!!!

これを奇跡と呼ばずに何と呼ぼうか!

なんと相手選手のキックオフを2本止め、ルドゴレツに勝利をもたらしたのであった。

繰り返しになるが、モツィはセンターバックの選手であり、このPK戦で急遽GKを務めた選手である。しかし、その意気込みは確かなものであり、先攻となったPKキッカーに名乗り出たのもモツィ(しかもゴールを決める)であった。ゴールの位置につけば体を大きく揺らして相手を惑わし、懸命な横っ跳びで相手にプレッシャーをかけた。

殊勲のモツィはセリエAへの挑戦もあるがたった数試合の出場しか叶わず、現在はブルガリアでプレーする29歳だ。そして今日、彼はUCLプレーオフという大舞台でクラブの歴史を刻む活躍を示した。

UCLプレーオフの中で最も地味だと思われた試合の結末は、長いUCLの歴史を紐解いても最高にスペクタクルなものとなった。ルドゴレツが見せた奇跡中の奇跡に、 本格的な欧州サッカーの到来を感じた。

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