2 サイドのアタッカーに求められる広いプレー。

チェルシーでプレーするアンドレ・シュールレ、アーセナルでプレーするメスト・エジル、ボルシア・ドルトムントのマルコ・ロイスのように、ドイツ代表は若く優秀なアタッカーを多く生んできた。そして彼らに共通する1つのポイントは「サイドでも中央でも柔軟にプレーすることが出来る」という点である。こういった選手を育成するために、とにかくドイツU-19代表はサイドの選手に多くの役割を求めていた。それも自分の得意なプレーを仕掛けていくようなプレーではなく、相手のDFを観察して状況を判断していくことに大きな重点を置いている。「自分勝手に仕掛けるのではなく、DFラインに合わせてスキルを生かす」、というのが1つのキーワードになるだろう。

「サイドでボールを持って仕掛けていく」というよりも、「サイドを起点」とする意識が強いのがドイツU-19代表の1つの特徴だ。サイドバックを引き付ける役割を引き受けるサイドアタッカーに連動し、中盤やサイドバックが積極的に飛び出していく。相手が中央に絞っている場合は下図のように外に開き、サイドバックを誘い出す。そして、サイドバックがチェックしてくることによって空くスペースにサイドバック、中央のアタッカー、ボランチといった選手たちが状況に応じて飛び込んでくるようなプレーが非常に多かった。

中央のアタッカーが飛び込んでくるようなパターンは決して珍しくないが、ドイツの左サイドバックに入っていたファビアン・ホルタウス(ボーフム)は非常に質が高い選手で、ボランチのようなポジションから中盤の内側をオーバーラップするというような意外性のあるプレーを幾つか見せることでポルトガルの守備陣を苦しめていた。ハイライト動画での得点シーンでも、数人が右サイドで連携しながらサイドを起点にして攻略していることが解るだろう。

勿論、サイドアタッカーでも状況に合わせて中央寄りでプレーすることを求めるドイツでは、彼らにはインサイドに切り込んでいくようなプレーも求められている。日本代表でいえば「香川のように中央に向かっていくようなプレー」で相手のDFラインを押し潰し、外からオーバーラップするサイドバックのスペースを作るような場面も多かった。そして、逆からセンタリングに飛び込んでいくようなプレーも重要な役割の1つだ。スペインと比べるとサイドからシンプルなセンタリングを狙うような攻撃を重視するドイツでは、サイドアタッカーやオフェンシブハーフの選手でも積極的にエリア内でクロスの受け手になることが求められる。チェルシーのシュールレなどは、そういったプレーを得意とする選手の1人である。

要約すると、「外でのプレー」、「内側寄りでのプレー」、「エリア内でのプレー」、ドイツのアタッカーにはその全てが求められてくるのである。勿論簡単なことではないが、こういった育成こそがマルチで活躍出来る頭の良い選手を生んでいる秘訣でもあるのだろう。

ドイツの育成、その根本

ここまで論じてきたようにドイツの育成は、「基本」となる戦術の密度が高い。それは「創造性」のような非常に曖昧なものに頼ることなく、基本となる戦術を選手たちに浸透させることを基盤として、そこから選手たちの個性を生かしていこうという考えから来るものなのだろう。それは、ポルトガルやフランスのように、育成年代では選手たちの個性を出来る限り尊重していこうというアプローチとは異なっている。実際、「マンチェスター・シティで既にトップチームデビューを果たしているマルコス・ロペスを中心に個の技術を生かして戦うポルトガル」が決勝まで辿りついていることもあり、どちらが正しいか、という議論に答えを出すことは難しいが、少なくともドイツの成功を考慮すると「戦術を育成年代に細かく教え込む」ことも1つの選択肢とはなるはずだ。

また、同じく育成大国として知られるスペインやオランダと比べると、ドイツは「最先端」を追う気持ちが強いように思える。プレス回避などはその筆頭で、相手が基本形を使うという前提の上に戦術を浸透させているからだ。また、イングランドの実況にU-19のGKが「Nextノイアー」と呼ばれたように、GKに高いラインの裏をカバーさせるように指示を出したり、パス回しに参加させていく意識が強かった。

スペインやオランダは伝統的に勿論戦術的な決まり事を育成年代にも教え込むが、ドイツと比べると緻密さでは劣る。というよりも、スペインやオランダは戦術をある程度まで教えるが、それ以外は個に委ねているような印象だ。彼らのアプローチも勿論成功しているし、W杯でのオランダの成功は「指揮官の変化に起因する戦術の変化にも、個の能力を生かして対応することが出来る」ということを証明した。ドイツが様々なポジションをこなせる器用な選手を育てることに優れる一方で、アリエン・ロッベンのような絶対的なスペシャリストが生まれやすいのはオランダやスペインなのかもしれない。

日本がどのように育成に取り組むか、というのは語りつくせないほどに深いテーマだが、戦術を教え込むことによって「より緻密な基本」を浸透させていくことは日本人の気質には合っているように思える。少なくとも、個の判断力や技術を優先するオランダやスペインのスタイルは、組織的に見えて非常に難しい課題を日本へと突きつける。バルセロナ式、と言われるような日本のユースが一定の位置で伸び悩む理由は、ある意味でそういった部分にもあるのではないか。組織に求める個、という部分も議論の余地がある。

勿論ドイツを真似ればいいという簡単なものではないが、彼等のスタイルには多くのヒントがあるはずだ。ある意味で、伝統的なフットボールを基盤として育成を成功させているスペインやオランダと比べても、「理詰めの現代フットボール」でドイツは成功を収めているのだから。

前線のアタッカーに求める柔軟さと、戦術の緻密さ。2つのポイントに集中したドイツは、これからも数年は強豪国であり続けるはずだし、どのように彼らから学んでいくかというのは今後も注目すべきトピックであり続けるだろう。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
ツイッター: @yuukikouhei

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想などはこちらまで( @yuukikouhei)お寄せください。

【厳選Qoly】日本代表の2024年が終了…複数回招集されながら「出場ゼロ」だった5名

大谷翔平より稼ぐ5人のサッカー選手