壮大な社会実験場「鎌倉モデル」

――シンガポールはナショナルスタジアムのスポーツ・ハブなど「ハブ」と付いているスタジアムが多いですね。世界的に珍しいです。

オフィシャルにはタンピネス・ハブを誰もスタジアムとは呼んでいないんです。作った人も呼んでいない。タンピネス・ハブという建物で、グラウンドのところは「タウンスクエア」という名が付いています。

というのも、観るスポーツとして国内のサッカーはそれほど人気がありません。多くの人がプレミアリーグなどをテレビで観戦します。タンピネス・ハブも通常入っても2,000人くらい。サッカー関係で一番入ったのが昨年のCL決勝、夜中にパブリックビューイングが行われ、5,000人フルハウスになりました(笑)。

吹き抜けのショッピングモールにはオーロラビジョンがあり、無料の映画放送を毎日やっていておじいちゃんおばあちゃんが日がな一日それを観ていたりします。

そうやって人が集まる、という意味合いで「ハブ」と名付けられているのだと思っています。

――タンピネス・ハブ的スタジアムを日本で作る上で注意した方がいい点はありますか?

外観で言うと、センセーショナルな面白さというか象徴的なものである方がいいのではないかと思います。

それと、鎌倉の場合はほぼ民間の土地なので、経済的な合理性がないと結局できません。誰かが損を被る形は持続性に欠けてしまいますし、シンガポールの場合は政府主導で推し進めればできちゃう国なのですが、日本でそれと同じようにやるのは難しいんじゃないかと思います。

日本ならボールパーク的なもので商業ベースにもしっかり乗るものになるでしょうね。

一方で、神奈川県と鎌倉市はSDGs、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)にコミットしている都市なので、SDGsに即した開発であるとすれば関心を集めるかもしれません。

個人的には、壮大な社会実験場にしたらいいんじゃないかと思っています。広大な土地があって、企業誘致と口で言うのは簡単ですが、何らかの産業集積をしなくてはいけません。

たとえば高齢化の日本が最先端を走っているヘルスケアはグローバルにも繋がる産業ですし、東京や世界から資本を呼び込み、一緒になってあの30万平米の街づくりをやっていく。そしてそのモデルを海外ないし国内の他の自治体に売り込んでいく。

シンガポールと同じく内需よりは外需の視点です。観光などで外国人もたくさん来るわけですし、国内外の外の世界とももっと繋がっていき発展していける方法があるのではないかと考えています。

サッカーやスポーツという魅力あるコンテンツをコアにして、そして特徴的、象徴的なデザインのインフラを作ることで、市内外の枠を越えて、さらには国内外の枠も飛び越え、世界中からヒト・モノ・カネ・情報が集まるハブとなる。

そこをイノベーティブな社会実験・R&Dのフィールドとして活用し、付加価値の高い製品やサービス、仕組み、人材を創り出して、今度は世界へ輸出、輩出していく。

鎌倉市や神奈川県ならではの、サステナビリティやウェルネスが軸になると思います。こんなことを「鎌倉モデル」として世の中に提唱していければと思っています。