J1全試合を観戦し、分析するQolyアンバサダーNobuya Akazawa|J1全部見るマン|が語る、先週のJ1注目の試合とそのレビューをお届けします。
苦しむ両者。ここまで勝ち切れない試合が続き、なんとしてでも結果の欲しい両チーム。後半戦に弾みをつけるためにも内容よりも結果が欲しい一戦だったと思います。
今季一番と言っても良いような内容を繰り広げたコンサドーレと、紙一重の戦いをしつつも勝利をもぎ取る底力を見せるマリノス。そんな彼らが見せた試合は、内容と結果がほとんど差のない接戦だったのではないでしょうか。
では、どのような一戦だったのかを振り返ってみましょう。
今回の内容は以下のようになっています。
・安定したプレスを見せた札幌
・前後の分断を解消した小林の存在
・マリノスのどこが紙一重なのか?
こちらの内容に触れながら試合を振り返りますので、一読ください!
安定したプレスを見せた札幌のプレス
この試合の札幌のプレスはとても安定していたと感じました。突発のプレッシングではなく、しっかりと連動しながら尚且つスペースを消しながらプレスを行ったので、マリノスの前進を頓挫させることに成功していました。
ここまで18試合。彼らのプレスは単独でひっくり返されると1つ1つ剥がされてしまっていましたが、この試合はそうではなかった印象です。
では、どのようなところを修正し、どのようにプレスをかけたから安定していたのかを振り返ってみます。
まず札幌は小林選手が喜田選手を捕まえる形と鈴木選手と長谷川選手がセンターバック(以下CB)に向かっていく1stプレスラインを形成していました。これを行うことによって、馬場選手と駒井選手がインサイドハーフ(以下IH)の天野選手と渡辺選手を捕まえることができつつ、さらに1stプレスラインで中央をある程度ぼかすことができるようになっていました。
ここからすでに、いつもの札幌のプレスと違った印象を受けました。なぜなら「どこに誘導して」「どこで奪いたいか」が明確に見えたからです。では、どのように誘導して、どこでボールを回収していたのかを見ていきましょう。
・どこに誘導するのか?
↪︎外誘導でSBに入るとプレスのスイッチが明確に入る印象を受けました
・どこで奪うのか?
↪︎SBから出てくるウイング(以下WG)とWG⇨IHのパスを狙って回収していた印象を受けました
この2つが明確になった上でプレスをかけていたので、札幌のプレスが安定していたのだと思います。さらにウイングバック(以下WB)のプレスのスタート位置と背後の消し方も良かったので、サイドバック(以下SB)の選択肢を削ることもできていました。特に中央のIHを消せる立ち位置からSBに向かったことによって、札幌のバックスの選手たちはポジションを取り直すことが可能になって、狙って守備に入ることができるようになっていました。
だからこそマリノス戦のプレスは今季一番安定していたと感じました。
しかし、それでもWGの質で叩いてくるのがマリノスです。何度かマテウス選手や宮市選手が個人でひっくり返すことで速攻に出たり、時間を作って遅攻に入ったりしています。さすがのクオリティだ!と改めて感じた一戦でした。
前後分断を解消した小林の存在
札幌が今季苦しんでいる理由の1つとして挙げられるのが保持の局面です。簡潔に述べると、前と後ろの分断が起こってしまっているので、前進することができなくなっています。しかしながら、この試合の札幌は『前後分断』という問題をある選手が解消してくれていました。その選手が小林選手です。
彼が前と後ろの繋ぎ役、いわゆるリンクマンになったことで札幌は攻撃に出ることが可能になっていました。さらにこれは選手個人の判断だけでなく、チームとしてマリノスの守備に対して影響を与えたことによって行えたものだったので、結果は付いてこなかったですが後半戦に向けて明るい材料の1つだったのではないでしょうか。
では、どのようにそれを作り出していたのかを振り返っていきます。
まず大枠として、札幌はセントラルハーフ(以下CH)が最終ラインに落ちて、センターバック(以下CB)が外に広がる可変をどの試合でも決まって見せます。この試合も例外なくこれを行っていました。
ここでマリノスの守備と照らし合わせた時に、最終ラインに降りる馬場選手で天野選手やロペス選手に影響を与えることができていました。これでプレスの基準や守備の基準をずらすことに成功します。
そして馬場選手、岡村選手、駒井選手でマリノス2トップに数的優位を取ることができるので、安全にボールを持つことができます。安全にボールを持つ時間を得れると、前線の動きを加えることが可能になります。ここの繋がりもこの試合の良かった点だと僕は感じました。
このように小林選手と長谷川選手、鈴木選手が列の入れ替えを行ったことによって、マリノスCBをピン止めしたこと、さらにWBが高い位置をとることによってSBを止めたことにより、喜田選手周辺でボールを引き取れるようになっていました。さらに喜田選手はIHのカバーを常に取り続けるタスクがあるので、視界外から降りてくる小林選手の対応がワンテンポ遅れます。
これによって札幌は前進することができ、フィニッシュワークの局面まで多く持っていくことができていたのではないでしょうか。
あとは最後の質を高めていくことができると、本来の攻撃力を取り戻すことができるのではないでしょうか。
マリノスのどこが紙一重?
なんとかなっているものの、やはり苦しいのはマリノスです。崩しの局面に入ることができれば、個人の質と発想、そして繰り返す背後へのランニングでゴールを奪い切ることができるのですが、いかんせん崩しに入っていくための「前進」が紙一重です。
マンツーマンでプレスを仕掛けられたときのマリノスは前進の方法までも個人の質に頼み切ってしまうところが苦しくなっている原因だと思います。
WGの質を生かすぞ!というのはきっとマリノスの今季のテーマなのですが、そこまでの届け方に苦労している印象です。
そしてこの試合でもそれが露見されました。前半は直近の広島戦のようにSBを低めの位置に配置しながらWBを呼び込むことを行ったのですが、札幌のCBのポジショニングの取り直しが早かったために、WGの質を生かすことができませんでした。だから先ほども触れたように、WGのところとWGから出る次のパスで回収されることが多くなってしまいます。
そこで後半からのマリノスは以下のように修正を加えています。
このようにSBが最初から内側に入っていくことで、WGのプレースペースを確保することを行います。マリノスは前進時にこれを行うことが少ないのですが、札幌戦ではSBを内側に絞らせることで、WBの立ち位置をずらしてWGとIHの旋回を行っていきます。
当然ですが、ここでWGが奪われてしまうとサイドのスペースが空いているので、一気に奥深くまで侵入されてしまいます。この辺りもやはり紙一重なのですが、後半は特に『WGと心中する』という強い意志を感じました。
だからこそ、背後を取っていくことが可能になっていきます。では、どのように旋回をしていたのかを見ていきましょう。
このようにSBが内側に入っていくことで、先ほども述べたようにWBの立ち位置をずらしていきます。さらにIHも前に出ていくことで、CHの立ち位置をずらします。これでWGのプレーエリアを確保していました。
そしてWGが前を向くことができると、SBがインナーラップで背後を取っていきます。
このようにインナーラップで背後を取ることによって、マーカーのWBを置き去りにすることが可能になっていきます。これを繰り返していくこと、さらにはSBが外側で止まる本来の形を織り交ぜることによって、札幌を疲弊させることに成功していました。そして交代で入ってくるのが井上選手であり、エウベル選手なのですから本当にとんでもない戦力です。
結果と内容は紙一重
内容は良かったとも言える札幌と結果が付いてきたマリノス。決め切っていれば勝ち切れたであろう札幌は、本当に悔しい一戦だったでしょう。この良かった内容を継続していくことが後半戦に巻き返すための一縷の希望となるのではないでしょうか。
一方のマリノスは紙一重で勝ち切っている今のうちに、内容を改善していく必要がありそうです。どのように彼らがチームとしてブラッシュアップしていくのかも後半戦の1つの楽しみです。
Nobuya Akazawa|J1全部見るマン|
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