サッカーの試合に欠かせない存在である審判。近年はその審判に対する侮辱などが問題になってきた。
そうしたなか、トップレフェリーのひとりであるアンソニー・テイラーが審判を取り巻く現状に苦言を呈した。
マンチェスター出身のテイラーは46歳。2010年から英プレミアリーグで主審を務め、W杯やEURO、そして、UEFAネーションズリーグ決勝でも笛を吹いた人物だ。2010年には審判交流プログラムの一環として、日本のJ1とJ2で笛を吹いた経験もある。
『BBC』によれば、テイラーは「完璧さを期待する」文化を批判したという。
彼は2023年のUEFAヨーロッパリーグ決勝で笛を吹いたが、セビージャにPK戦の末に敗れたローマのジョゼ・モウリーニョ監督(当時)から試合後に「恥」と酷評された。モウリーニョは駐車場でテイラーに詰め寄る行動も起こしており、その後、4試合のベンチ入り禁止処分を科された。
テイラーによれば、モウリーニョとの一件があった後、空港で家族とともにいた際に罵声を浴びせられる最悪の経験をしたという。
家族は彼が罵声を浴びせられる試合を見に来ることがなくなり、テイラー本人も否定的なコメントや意見を読むことに「時間を無駄にしたくない」ため、SNSはやっていないという。
「メディア関係者や評論家、元審判員から『お前は下手だ』と繰り返し言われ続ければ、メンタルヘルスが悪化する可能性がある。
サッカー界の文化は概して『試合には何が何でも勝たねばならない』というものだ。
試合後に人々が虚偽の主張や悪意ある陰謀論を拡散するために、様々な手段を尽くす様は…人々が活動する環境にかなりの悪影響を及ぼしている」
また、近年のサッカー界でお馴染みになったVAR(ビデオアシスタントレフェリー)についてはこう述べた。
「プレミアリーグでは、過剰な監視や分析、議論が溢れていて、誰もが完璧さを求めている。
現実には完璧など存在しない。我々は審判に全ての判定で完璧さを求める。失敗やミスを恐れる人々の心理について、真剣に議論を始めることが本当に重要だ。
人々が活躍できる環境を整えなければ、恐怖心が生まれて、長期的には個人やパフォーマンスに悪影響を及ぼしうる。誰もが専門家気取りだ。
(VARによって)完璧さを求める期待が生まれた。全ての問題を解決し、理想郷をもたらすというものだ。現実には、そうした人々は的外れだった。
ある週には『VARをあまりに厳密に運用してほしくない』と言ったのに、次の週には『なぜVARが介入しなかったのか?』と言う。
人々が本当に望むものを決める必要がある。
ある週は『試合の流れを壊すから介入してほしくない』と言い、次の週には『ここでVARが介入しなかったのは恥ずべき』と言うのはありえない。
我々は現実を見据えて、このテクノロジーが存在する目的についてもう少し論理的に考える必要がある」
VARに対する一貫性のない批判にも辟易しているようだ。
そのテイラーは、今夏にアメリカで行われたFIFAクラブW杯も担当。来年にはW杯本大会が行われるアメリカでは酷暑が問題視されており、テイラーは「ひどく過酷だった。コンディションは本当に厳しかった」とも話していた。
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