代表監督は非常に名誉ある仕事だ。確かな実績と豊富な経験が必須であり、国を預かるプレッシャーと闘えるタフさもなければならないからだ。代表を率いることができるということは、監督の中でも一流であることを示してもいる。

もちろん、良くも悪くもプライドが高い代表選手たちをまとめられる「人柄の良さ」も条件である。この観点から言えば、ビセンテ・デル・ボスケ(現スペイン代表監督)、カルロ・アンチェロッティ(現レアル・マドリー監督)は極めて理想的だ。今回の当コラムでは、そういった人物的観点ではなく、戦術的観点から代表監督の"条件"を考えてみたい。


・確固たる哲学を持つ監督は……

代表とクラブの大きな違いは補強ができないという点にある。代表では、監督が望む選手が必ずしも揃っているとは限らない。もちろん、監督の理想通りに外から選手を獲得することもできない。

この観点から考えると、確固たる哲学を持つ監督が代表を率いるのは厳しい。例えば、3-4-3システムの信奉者として知られているジャン・ピエロ・ガスペリーニ(現ジェノア監督)。彼の場合、3-4-3にマッチする選手が揃っていなければ、結果を残すことは難しい。クラブでなら自分の戦術に合った選手を獲得し、合わない選手を放出できるが、代表ではそれができない。もちろん、合わない選手を冷遇することは可能だが、国民からの反発は大きいだろうし、何より宝の持ち腐れとなってしまう。

同じイタリア人でも、アルベルト・ザッケローニ(前日本代表監督)、アントニオ・コンテ(現イタリア代表監督)は戦術的柔軟性がある。前者は何度か試した3-4-3に見切りをつけ、最終的に4-2-3-1をメインとした。そして後者も試行錯誤の末、3-5-2システムを完成させた。

コンテの例を詳細に述べてみる。彼は元々4-2-4システムの信奉者で、2011年にユヴェントスの監督に就任した際も4-2-4をメインにするつもりだった。

だが、アンドレア・ピルロという当代きってのレジスタの存在が、コンテの考えを変えた。ミラン時代のピルロは、4-3-1-2または4-3-2-1システムの中核として活躍した司令塔だ。ダブルボランチの一角として起用するのではなく、ミラン時代と同じく3センターハーフの真ん中で起用した方が持ち味を出せる。そう考えたコンテは、4-2-4から4-3-3へのシステム変更を決意した。

コンテはその後も試行錯誤をし、3-5-2システムを完成させた。4-3-3の3センターハーフはそのままに、3バックを導入して理想を手に入れたのだ。コンテの3-5-2は、両ウイングバックが非常に高い位置を取るのが特徴で、攻撃時は4トップのようになる。つまり、4-2-4でやりたかったサッカーを3バックで実現させたのである。3-5-2システムを完成させたユヴェントスが国内で敵なしの強さを誇り、3連覇を達成したのは記憶に新しい。

また、ブラジルW杯でオランダをベスト4に導いたルイス・ファン・ハール(現マンチェスター・ユナイテッド監督)も柔軟性のある監督だ。華麗な攻撃サッカーのイメージが強いオランダ代表だが、ブラジルの地では3バックをベースとした手堅いサッカーを披露し、結果を残した。国の伝統や自身の哲学を曲げるのはかなり勇気がいる決断だが、それができなければ、代表監督は務まらないと言っても過言ではない。


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