――日本ではおそらくGKのアリー・アル・ハブシが有名だと思うんですが、彼の場合はどんな意味や由来があるんですか?
アラビア語の正式な発音では、「アリー・アル・ハブスィー」のような音なのですが、アリーはイスラム教で重要な指導者の名前です。もともと「高い」という意味なので、日本人でいえば「たかし」さんが一番近いでしょうか。「アル・ハブスィー」はいかにもオマーン人らしい部族名のひとつです。
ムハンマド(Mohammed)、アフマド(Ahmed)といったよくある名前は、たいてい宗教的な意味合いがあります。
「ムハンマド」はイスラム教の預言者にちなむ名前で、道で適当に「ムハンマド!」と呼んだら5人くらい振り返るというジョークもあるくらいよくある名前ですが(笑)、「褒め称えられる人」という意味があります。
そして「アフマド」は実はそれの比較級で、「もっと褒め称えられる人」という意味なんです。なんとなく音が似ているような気がしませんか? 語源が同じだからなんです。
他にも、「ライオン」や「タカ」など動物の名前をつけることも一般的ですね。沙漠は水が貴重だからなのか、「雨」さんも見かけました。
女性の場合も、宗教的な名前の他に、優美な動物だとされる「ガゼル」の名前をつけたりします。女性のきれいな目を「ガゼルの目みたい!」といいます。
実は日本と同じで、今どきのキラキラネームもあるんですよ。
――アラビア語の人名表記はなぜあんなにブレてしまうんですか?
これもなかなか問題なんですよね。アラビア語が読める人材は限られていますし、一貫したカタカナ化のルールもありません。
アラブ人の名前をローマ字、そしてカタカナに変換していくときに、「消えてしまう情報」が多いんですよね。英語や日本語にない音は正確に書き分けられませんし、ローマ字化した日本の地名が、大阪→Osaka(オサカ)、東京→Tokyo(トキョ)になってしまうような現象は日常茶飯事です。
そもそも日本語とは音の仕組みが大きく異なっているので、アラブ人に「あなたはアフマド?アハマド?」「ムハンマド?モハンメド?それとも?」と聞いても、「ううん、どっちが近いかなぁ・・・」と考え込んでしまうのです。
でもアラブ人にとっても日本人の名前は難しいんですよ。私も日本車にちなんだあだ名をつけられています(笑)。
――そこは難しいところですね…最後にオマーンにおけるサッカー人気や日本代表戦の取り上げられ方についてお聞きしてもいいですか?
オマーン人の間でもっとも人気のスポーツは間違いなくサッカーです。SNSのトレンドでもサッカー関係のワードがあふれています。
少年から大人に至るまでサッカーになると熱くなる「サッカー狂」が大量にいます(笑)。
日本のサッカー漫画『キャプテン翼』は、オマーン人なら誰でも知っていますよ。登場人物の名前が全部アラブ人に訳されたので、「キャプテン・マージド」になっていますが(笑)。
――村岡さん、ありがとうございました!
忙しい中でご協力いただいた在オマーン日本大使館専門調査員の村岡静樹さん、心より感謝を申し上げます。
なかなか日本で取り上げられることが少ない「アラビア語の名前事情」。なかなか興味深いポイントをいくつも聞くことができたぞ。
村岡さんからは現地の新聞を集めた写真も頂いた。
見出しには「日本を手懐けたあの夜をもう一度!」「赤きオマーン、ホームスタジアムとサポーターを武器にサムライと戦う」「ヒーローたちよ、悲願達成のためには日本を倒さなければならない」と書かれているそうだぞ。
日本時間では明日の午前1時からキックオフされるオマーン代表対日本代表。相手選手の「名前」についても注目して見てみてはいかがだろうか?
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