マスコミは虫
高橋ーー書くことが仕事だと勘違いされているけれど、1番大事な仕事は聞くことだと思っています。だからコミュニケーションの部分はとても大事にしていて、選手とメディアの前に一人の人間として接しています。だから相手と話すときにも、共感を大事にしている。
あとは相手の話を遮らないようにしています。相手が話し出したら絶対に喋らない。選手が話したいことを何とか聞き出すためにも、そのための環境づくりが大事。だから人がたくさん集まるミックスゾーンでの囲み取材は、5分を目安にしています。
浅野ーーついついたくさん聞きたくなってしまいますが、どうして5分に設定しているんですか。
高橋ーー選手たちにとって、練習や試合が終わった後はだるいわけですよ。走りまくって、酸欠に近いような状態ですから。たとえ早く帰りたいような状況でも、失言してしまったら書かれてしまうわけです。その状況で5分以上も取材させられたら、嫌な気持ちになると思うんですよね。
浅野ーーコミュニケーションはマニュアルがないから、難しいですよね。僕は現場を重ねる度に、他のライターさんのテクニックを見て、実践を繰り返しています。
高橋ーーそれこそ見ることもすごく大事です。サポーターはDAZNなどで試合を観られますから、自分しか見ていない景色を届ける必要があると思っています。映像に映っていない景色をどれだけ原稿に入れられるのか。それができないとしたら、ライターをやる資格はない。
浅野ーーたしかに。映像でいくらでも見返せる時代ですもんね。
高橋ーーもちろん書くことに関しては間違いが許されないし、読みやすい文章は重要です。ただ、その材料になる見る部分と聞く部分ができていないとしたら論外ですね。
浅野ーー僕はフリーなので、それらを教えてもらう前に現場に飛び込みました。だけど、どうしても机上の空論だけでは、どうにもならない部分がありました。ライターはいつも不確定な現場で仕事をするから、難しいと感じています。
高橋ーーマスコミって虫なんですよね。ライターが益虫か害虫になるかは紙一重だと思っています。
浅野ーーマスコミは虫…
高橋ーー例えば、選手やクラブが高級料理だとすると、その利益だけをむさぼるだけだと、我々は料理にたかるハエになってしまう。それは害虫です。だけどミツバチのような益虫であれば、選手やクラブという名の花が持つ花粉を、サポーターや読者のような別な花に受粉させられる。僕はその架け橋になれたらいいと思います。