「湘南モデル」へのアップデート
2021年の9月にコーチから昇格した現在の山口智監督は現役時代、2001年から2011年まで11年在籍したG大阪で全盛期を迎えた。稀代の司令塔・遠藤保仁(現・ジュビロ磐田)と縦関係でコンビを組んでビルドアップを担う現代的なセンターバックだった。
現役引退後に戻った古巣G大阪でもコーチとして守備組織の構築に貢献し、2020シーズンには近年J1で残留争いをしていた西の横綱を2位へと大躍進させた。その指導力は彼が去って以降のG大阪を見れば一目瞭然。湘南でも失点数の大幅減に寄与している。
そんな山口体制の現在、新たな傾向がスタッツに表れている。1試合平均のクリア回数がリーグ最多を記録していた曺監督時代とは真逆で、リーグ最少を記録しているのだ。
就任以来、山口監督は湘南スタイルの踏襲を前提にしつつ、「選択肢を増やしたい」と常々口にして来た。「マイボールを大事にする」のはその1つだが、相手のクロスを右足でブロックし、左足で正確にフィードできる現代的なDFだった現役時代の山口智を表現するプレーコンセプトだ。
具体的には攻撃時には従来の湘南スタイルである、「ボールを奪ってから直線的に相手ゴールに迫る」ことを最優先しながらも、速攻ができないと見ればサイドに人数をかけて起点を作る。
すると、そのままサイド突破をするのも良いし、中央にスペースが空くのでバイタルエリアの狭いスペースを攻略する選択肢も生まれる。その中で攻撃するエリアに数的優位を作るために従来のベースである走力を活かしている。
守備ではボールの奪われ方や自チームの配置によってプレスのかけ方を変えている。相手を押し込んだ時はボールを失った瞬間にゲーゲンプレスによる即時奪回を試みる。
逆に攻撃にかける人数が少なければ前線からのプレスは「時間稼ぎ」のディレイを優先。自陣にMFとDFによる2列の守備ブロック構築を助ける。ただ、相手のボールホルダーへのプレス強度が高まれば、一度セットした守備ブロックを前進させて従来のようなボール狩りに向かう、といった具合だ。
つまり、山口監督は「湘南スタイル」に、柔軟性をもたせたフレームワークを導入し、「湘南モデル」へとアップデートさせようとしているのだ。