笑顔があふれる町に

Jヴィレッジは2018年7月28日から一部施設の運用を再開し、2019年4月20日から全面営業を再開した。そして静岡県に一時移転していたJFAアカデミー福島が昨年度から福島での活動をリスタートした。

西シェフは現在JFAアカデミーの男子中学世代、女子チームの選手たちのために料理を作っているという。あれから14年目を迎えて震災前に従事していた仕事に西シェフはやりがいを感じている。

「かわいいよ。自分の子どもみたいだ。ついつい自腹でおいしいものを出しちゃう(笑)。うちのかみさんは(子どもたちに)コンビニでねだられているみたい。「きょう綺麗ですね!」とか言われると、「そう?何でも買ってあげるよ」とか言って(笑)。夏の暑いときにアイスクリームを買ってあげてね。楽しいですよ(笑)」と満面の笑顔を浮かべた。

子どもたちの話を笑顔で語る西シェフ(高橋アオ撮影)

平穏を取り戻しつつある浜通り地方で、西シェフの表情はどこか充実しているように見えた。この地域の未来に願うことを尋ねると、「また難しいことを聞くね(笑)」と大笑いしながら、「なんだろうなあ。このまま何事もなく、福一のデブリ(残骸)を取り出して、早く収まってほしいというのが一番でしょうね。また何かあったらどうなるか分からない。もう一回同じようなことになったらもう誰も絶対に戻ってきませんよ」と事故の収束を願っていた。

あの震災により多くの命が失われ、原発事故により消えない影を落としてしまった。復興により賑わいを取り戻しつつあるものの、この地域に住む人たちは不安をぬぐい切れていない。震災前の日常は戻ってこないかもしれない。それでも西シェフはこの地域に住む人たちの幸せを願っている。

「みんなここに住んでいる人たちが少しでも幸せになって、笑顔があふれる町であれば一番いいんじゃないですか。以前のように。そこには喧嘩したり、泣いたりは普通にあるけど、昔の日常に戻ることが一番ですね。戻らないかもしれないけど、せめてここいる人たちはそういう気持ちでみんな戻ってきているからね」

(高橋アオ撮影)

【インタビュー】西芳照シェフと3.11。日本代表専属シェフが体験した東日本大震災—前編—

あの日被災しながらも前を見据え、地元のためにフライパンを振り続けた西シェフ。平穏と賑わいが戻りつつある浜通り地域で、充実した生活を送っている。復興は14年目を迎えた現在も途上であるが、近い将来、笑顔があふれる日常に戻ってほしい。

【Qolyインタビュー】西芳照シェフと3.11。日本代表専属シェフが体験した東日本大震災—前編—