――これから訪れる明るい未来に期待も高まりますが…。現在の日本サッカー界の課題についてはどのように感じられていますでしょうか?
1993年に10チームで開幕したJリーグが、今では3カテゴリ、全60クラブにまで拡大し、多くの方々にサッカーを楽しんでいただけるようになりました。
2015年に設立されたスポーツ庁は、当初から「魅力的なアリーナやスタジアムを作る」という方針を掲げていましたが、近年はさまざまな競技の魅力的なスポーツ施設が各地に誕生していて、スポーツの魅力に触れていただけるような環境が整いつつあります。
そしてこの10年間で多くの新興企業がスポーツ業界に参入することとなり、活性化につながっているように思います。
サッカー界でもクラブ数の増加に伴い競技の裾野が広がり、スポーツ界における存在感を示すこともできたと思いますし、さまざまなものが徐々に整備されつつあるように感じています。
しかし私自身が現状の課題を感じているのは、魅力的なクラブを作り上げていく人材と資金面に関する部分です。
今の日本サッカー界を見渡すと、残念ながら全てのクラブに優れた経営やマーケティング、魅力的なグッズ制作を得意とする人材が揃っているわけではありません。
もちろん素晴らしい感性や実力を持った皆さんが日本のサッカー界を支えてくださっていますが、その人材が各地に分散してしまっていて、時に他の競技との取り合いになってしまっている状況も見られる。
おそらく、一般の企業やスポーツ業界全体を見渡しても足りていない状況があるでしょうし、素晴らしい人材を育んでいくのは時間を要しますから、長期的な視野で解決を目指していく必要があると思うのですが…。まだまだ改善の余地はあると感じています。
――アスリートや他業界の人材が入りにくい状況もあるのでしょうか?
以前は、他業界の人材が入りにくいような雰囲気も多少見られたかもしれませんが、最近はさまざまなバックグラウンドを持つ人材を積極的に受け入れ、多くの皆さんがスポーツ業界の発展に尽力してくださっているように感じます。
そして選手の皆さんも、選手として活躍している時から、その先のセカンドキャリアのことを視野に入れている方が年々増えている印象を抱いています。
――何か変化を及ぼすきっかけはあったのでしょうか?
Jリーグが行なっているキャリア教育の影響もあると思いますし、毎年60クラブでデビューを飾るルーキーの姿を重ね合わせて、「自分の選手生命はあまり長くないだろう」という気持ちで、プロの世界に飛び込んでくる選手が多くなった印象を受けています。
――元選手の中には、スタッフとしてスポーツ業界で働く方もいらっしゃると思いますが、人材の育て方や接し方に違いはあるのでしょうか?
個人的には、選手経験のあるスタッフも、ビジネス経験の浅い若手社員でも、マネジメントや育て方の本質が変わることはないと思っています。
僕もクラブで働いていた時に、専門学校を卒業したての新人女性社員にMD(グッズ)責任者をお願いしたことがあるのですが、少し教えただけでメキメキと頭角を現していきまして…。当時19歳だった彼女の開発したグッズが、クラブ史上最高の売り上げを記録したことがありました。
僕は、もし的確にビジネスの方法やノウハウを教えることができたら、彼女のような活躍ができる可能性を秘めている業界だと思っていますが、その方法を伝えたり、こまめに指導できるような環境が整っているかといったら、正直にいってまだまだ課題はある。
元選手であろうが、未経験であろうが、経験を積んでもらいながらクラブも数字を伸ばしていく。そのような土壌をもっと整えていくことが今後のスポーツ業界に求められるのではないかと感じています。