川上の動きは、<4-4-2>の攻撃時における構造的弱点を解消する策となり得る。フィールドプレーヤー10人で均等にピッチをカバーできる<4-4-2>は、守備においてもっともバランスが良く、計算が立つ布陣と言っても過言ではない。

しかし、各ラインがフラットに並ぶ構造上、攻撃面では変化をつけにくいのも事実だ。攻守両面で<4-4-2>を採用するチームの多くが、サイドアタックとカウンターを主とする堅守速攻を標榜するのは、ある意味必然だろう。

守備の確実性はそのままに、攻撃では意外性を取り入れる――。攻守で異なるシステムを採用できる“可変システム”であれば、「いいとこ取り」が可能となる。

守備時は右SBでブロックの一員となり、攻撃時は神出鬼没の動きでアクセントをつける。このような川上(または田頭亮太)の働きぶりとそれを生かす仕組みが、今の群馬にはある。

義理人情の厚さと分析能力の高さ

戦術のキーマンとなっている川上エドオジョン智慧にとって、チームを率いる大槻毅監督は、浦和レッズユース時代の恩師であり、自身をプロ入りに導いた恩人でもある。

川上が徳島ヴォルティス在籍時の2021年、クラブ公式サイトに掲載されたインタビューでは、浦和ユース時代に「お前はカットインをするな。カットインは誰でもできる。でも、縦に突破できる選手は少ない。ワイルドにやれ。お前のキレとスピードなら行けるから!」とのアドバイスを大槻監督からもらい、「試合でも通用して“これが俺の武器なんだ!”と実感できたのが高校3年でした」とプロ入り前の分岐点を明かした。

また、ユース時代を「めっちゃヤンチャでした」と振り返る川上は、練習に行かなかった時期も1カ月ほどあったという。しかし、大槻監督は川上を見捨てず、自宅を訪問したり、プロの道を考えるよう声をかけたりもした。「本当にお世話になりました」と語る通り、大槻監督の存在がなければ、今の川上はなかったと言える。

2022シーズンよりザスパクサツ群馬を率いる大槻監督は、前述したユース監督はもちろん、2018年と2019年の2度にわたりトップチーム監督に就任するなど、指導者/強化スタッフのキャリアの大半を浦和で過ごしてきた。

トップチーム監督時代には、オールバックの独特な風貌から「組長」や「アウトレイジ」の愛称で親しまれたことを覚えている方も多いだろう。