言葉の魔術師・吉田謙監督の人物像
ブラウブリッツ秋田が3シーズン連続のJ2残留を実現できたのは、チームを率いる吉田謙監督の指導力によるところが大きい。
吉田監督は1970年生まれの53歳。1999年にACNジュビロ沼津U-15(現・アスルクラロ沼津U-15)の監督に就任して指導者キャリアをスタートさせると、U-13 およびU-15(2度目)の監督を歴任。2014年からトップチームのヘッドコーチ兼強化部長、2015~2019年に監督を務めるなど、20年にわたり沼津で指導にあたった。
2020シーズンから秋田の指揮を執ると、就任1年目でJ3優勝に導き(※優勝決定までは無敗)、2021年からJ2へ戦いの舞台を移す。J2初年度は13位、翌2022シーズンは12位でフィニッシュ。就任4年目となる今季も2試合を残してJ2残留を決めた。
いまや“秋田の顔”と形容できる吉田監督は、常にファン&サポーターに感謝の気持ちを述べる人情家。また、自身の哲学を貫く熱いハートと冷静な振る舞いが同居する人物で、試合後インタビューの落ち着いた語り口はまるで哲学者のようだ。
読書家としても知られ、クラブ事務所には愛読書を集めた「吉田図書館」があるほど(上記動画1分18秒から)。巧みな言葉遣いで聞く人の印象に残る言葉を度々残しており、その一部を試合後コメントから紹介したい。
「まず走る、そして走る」(第2節・熊本戦)
「紙一重は紙一重の練習を続ける以外ないと思います。満足したら負ける魔物が入るので日常から紙一重を続ける」(第4節・千葉戦)
「課題は宝ですので。宝を大切にしていきたい」(第5節・水戸戦)
「選手たちは最後まで走って、ゴールに向かってくれた。限界に限界はないので、さらに走って向かえるように、チームみんなで努力していきたい」(第18節・大分戦)
「ラスト10分。100%では守れない。勝ち切れない。101%、102%、一滴残らず気力を振り絞って戦うことが大事」(第30節・東京V戦)
「選手という原石は、信じて磨けば必ず光ります。秋田という独自色が光り輝くまで、練習するのみ」(第33節・磐田戦)
今季の試合で特に印象的だったフレーズを抜粋したが、いずれも指揮官の強い信念を独特の言い回しで表現している。試合後の興奮状態にある中で、ここまで詩的に発言できる監督はそうおらず、“言葉の魔術師”と呼ぶにふさわしいだろう。
その吉田監督は、走力およびハードワークをベースとし、「前への意識」を強く持つスタイルを徹底している。Jリーグ全体を見ても稀有な戦術の特徴について、次のセクションで詳しく述べていきたい。