赤字営業も大逆転の一手で黒字へ

ビッフェ形式の食べ放題で料理を作業員に提供していたという。「最初はご飯、味噌汁、主菜一品、副菜一品、サラダかな。主菜は肉魚でやっていました。『どうせならもう食べ放題でやっちゃおうよ』と。もう皆さんエビフライ10本とか取っていましたね(笑)」と、缶詰やカップラーメンで腹を満たしていた作業員にとって西シェフの料理は至福の時だったようだ。

お腹が空いている人が「美味しい、美味しい」と食べる様を生きがいとする西シェフの旺盛なサービスだったが、問題が生じてしまった。「最初はJヴィレッジの職員としてやっていたんですね。ところが、そんなことをやっていたら『もう赤字だから(料理の提供は)やめる』ということになってしまった」と赤字でサービス存続が危機的状況になってしまった。

それでも西シェフは作業員の力になりたい。

そこで「やめるという話が出て『いやいやいや、やめるわけにいかないでしょう』ということで、うちの会社(株式会社DREAM24)でその負債を背負い込みました。負債というか、いままでの仕入れと売り上げと、人件費を全部うちで引き受けてやったんです」と、これまで通りのサービスを提供するために負債を引き受け、自腹を切ってまで作業員に料理を作り続けた。

原子力発電所事故に対応する作業員(Getty Images)

ただ次第に赤字は重くのしかかってくる。死線を超えるような命がけの仕事をしてきた男たちの楽しみといえば食事しかない。当然西さんの経営状況を知らない作業員はもりもり料理を食べるのであった。

「俺は給料がなくてもいいけど、赤字だからね…。『あー、もう駄目だ。閉めるしかない。撤退するしかないか…』といったときに、東京電力の社員の皆さんが(Jヴィレッジ内で)寝泊まりして、朝と夜のご飯を食べるようになりました」とこれまで昼食だけ提供していた中で、朝昼晩と料理を提供するようになった。これが逆転のきっかけとなった。

晩食といえば晩酌が付きものだ。そこで西シェフは夜にお酒を提供し始めると、作業員たちは待っていましたといわんばかりにお酒を飲むようになったという。

「それから『夜にお酒を出していいですか』『お酒を出さないと売り上げないから夜やるんだったらお酒も出して、食事も出してくれ』というので、夜は食事と一緒に枝豆とか酒のつまみを出し始めました。(作業員からも)『やってください』みたいな感じで(笑)。そこから良くなりましたね。大逆転しました!(笑)」と、夜営業で黒字化へとつながったことで作業員の支えを継続できるようになった。